「……ったく、何やってんだよ」
呆れ顔で振り返ったのは、キルア。彼の背後では私を仕留め損なった豚が、その背を地面につけて倒れている。なにかを察したのか、他の豚たちも林の奥へと逃げ去っていった。
ぽかんと口を開ける私を見て、キルアは「お前なあ」と言った。

「群れで襲ってくる獲物に対して視野が狭すぎ! しかも攻撃するなら背中じゃなくて頭だろ! コイツの動き方とかでけー鼻とか見りゃあ弱点くれー分かるだろ!!」

ずいずいと迫りながら捲し立てるキルアに、私はただただ目を白黒させた。なぜか、「スイマセン」と謝罪が口を衝く。キルアのほうが年下だというのに、萎縮してしまっていた。
彼はもう一度大きなため息を吐くと、「早く焼いて持っていくぞ」と言って歩き出した。進行方向を見れば、彼が倒したであろう豚がもう一匹、白目を剥いて倒れていた。

「……視線を感じたんだけど、見てたのってキルア?」

感じた疑問をこぼせば、彼の背中がぴくりと反応した。返ってきたのはそっけない台詞。
「……豚の群れを追ってたら、お前が余りにも弱そうで、気になった。そんだけ」





第一の課題は(キルアのおかげで)無事に突破。そしてただ今、メンチから第二の課題が告げられた。

「あたしのメニューは、スシよ!」

寿司かぁ。まずは魚を取ってこないといけないわけだけど、豚から逃げ惑う途中で川は見た。でも川魚で良いのかなぁ?
私が首を捻っていると、何だか周囲がザワザワとしていることに気が付いた。
至る所から、「スシって……?」「どんな料理だ……?」とか聞こえる。……もしかして、みんな知らない?

「ねー、ナマエは知ってる? スシって」
ゴンが用意された包丁を見ながら尋ねてくる。キルアやクラピカ、レオリオも、ご飯や調味料を見て唸っている様から、寿司を知らない様子だ。
「あー……うん、知ってる」
四人にしか聞こえないよう、声を潜めて答えた。四人は驚きに目を丸くしていた。

「ナマエ知ってんのか!?」
「声でかいわ!!」

せっかく四人だけに教えてあげようとしたのに、レオリオが大声を上げてしまう。勿論周囲の人間がギロリと私を見やり、耳をそばだてた。少し離れた所では坊主頭の忍者が、「くそっオレの他にも知ってるやつが!!」と叫んでいる。
物凄く注目を浴びていることが分かり、体が縮こまった。





「こんな奇天烈な魚をお寿司にして、美味しいのかなー」

川でとれた数匹の魚を引っさげ、調理場に戻るため歩いていた。網の中ではねている魚は活きは良いが、どうも見た目がグロテスクで食欲をそそらない。私が唸っていると、クラピカが「作ってみるしかないだろうな」と答えた。

「しかし、スシを知っていたとなると、ナマエはジャポン出身かもしれないな」
「ジャポン?」
「ああ。遠い島国だが、スシとはジャポンの郷土料理だと文献で読んだのだ」

クラピカの言葉に数度瞬いた。ジャポン。私はそこから来たのだろうか?
多くの人が知らない料理を知っていたのだから、その可能性はある。唐突に舞い込んだ希望に胸がどきどきと鳴った。


しかしそのあとの試験は散々だった。寿司っぽい見た目のものをこっそり作って持っていっても、「まずい!」としか言われず合格ならず。同じように拒否された忍者が大声で作り方をバラしてしまい、ついでに寿司を愚弄したことにメンチが切れて。厳しくなった審査基準を越えられる者は誰もおらず、メンチはお茶を飲み干して笑った。

「ワリ!! おなかいっぱいになっちった」

―――二次試験合格者、ゼロ。

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