湿原を抜けた先にあったのは、この試験のために建てられたのであろう、一軒の簡素な建物。中からはひっきりなしに唸り声が聞こえてくる。
周辺を囲む人々――つまり一次試験合格者――を見ると、坑道で集っていた人数と比べてぐっと減っているのが分かる。一次でここまで減らされたのだ、この先も難関であることが伺える。

結局湿原を抜けるまで隣同士で走ったものの、特に会話もなかったキルアを伺い見れば、やはり汗ひとつかいていない。機嫌良さそうに鼻歌を歌い、口元に笑みを浮かべている。やはりただ者ではないようだ――本当にヒソカと同類、なのかな?
額に浮かぶ汗を拭い息を付くと、人混みの奥、一本の木にレオリオがもたれ掛かっていることに気が付いた。

「レオリオ!」

思わず駆け寄り声を掛けるも、反応がない。一瞬どきりとしたが、どうやら意識を失っているだけだと気が付きホッとした。
頬は腫れ上がり腕には刺し傷があるものの、命に別状はなさそうだ。胸をなで下ろしたとき、レオリオが低く唸って目を開いた。

「んん……あ? オレなんでここに?」

聞きたいことを聞かれてしまい困って首を傾げる。ちょうどその時、ゴンとクラピカもレオリオに気が付いたらしく、バタバタと駆け寄ってきた。





正午ちょうどに二次試験が開始される。その内容は、なんと料理だった。
第一の課題は“豚の丸焼き”――一斉に豚を求め散らばる受験生を見習い、私も森へ入った。
そこで出会ったのはなんとも凶暴な、見た事もない大きな豚。その鼻の大きさといったら、最早鼻ではなく角である。

「待って待って待ってどうしよう!!」

森の中を駆ける私の後ろには、怒り狂った十数匹の獰猛な豚。ただただ逃げ惑う私を仕留めようと追いかけてくる。私は焦りと恐怖に顔を歪めながら、木々の間を走り回った。
ハンター試験を受けると決めてからこの一年、自己流で体を鍛えた。元々の体もそれなりに鍛えられていたようで、身体能力としては恐らく他の受験生と比べて遜色ない。しかし決定的に足りないもの、それは実戦経験。
なにかを相手どって戦った経験が、一度もないのだ。

このままじゃラチがあかない、それは分かっている。走りながらも顔だけ振り返り、豚の様子を伺い見た。私が木々の間を縫って逃げるので、追いかける豚たちは木に突進する。ぶつかった木はいとも簡単に根元から折れた。あんなものに襲われては、ひとたまりもない。

あらためて恐怖が駆け巡り、再び前を向いた。そこで、木々の向こうに数本の煙を認める。既に豚を捕獲し丸焼きにしている受験生がいるのだ。
試験終了はブハラが満腹になった時。逃げてばかりもいられない――自分を奮い起こし、開けた空間に出た時、逃げるのをやめて向き合った。右足が草の上を滑り、止まる。
心を落ち着かせるため大きく息を吐いた、その時。体を、何か違和感が走る。
―――見られてる?
どこからかは分からない。しかし確実に見られている。視線を感じるのは初めてのことなのに、なぜか確信していた。

私が思考を巡らせる間にも、豚たちは群れをなし、その鼻を振り回しながら突進してくる。先頭の豚が直前まで迫った時、トンと地面を蹴り高く飛び上がった。
一直線に私に向かっていた豚たちを躱し、着地する。そして最後尾を走っていた豚の背に蹴りを入れようと右足を振りかぶった、その時。群れから外れた豚が一匹、一直線に私に迫ってきた―――あ、やばい死ぬ―――咄嗟に両腕で頭を守った。

ドォン!!!

鈍い音と、地面を伝わる振動。襲いくるはずの痛みは来ない。交差させた腕の間から見えたのは、風に踊る銀髪だった。

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