薄暗い地下から出ると、そこは果てしない湿原。吹き付ける風は湿り気のあるものの、地下に比べると清々しく息を付く事ができた。
この湿原に潜む生き物は獲物を欺く――それをニセ試験官によって体感する。そして、敗者の死体が啄まれる“自然の掟”も。さすがに気分が悪くなり目を逸らしてしまった。
ぬかるむ地面によって更に難度を増す試験。足を取られないようなんとか動かしていると、「あっ!」と明るい声が掛かった。

「ナマエ! 良かった、姿が見えないから心配してたんだ!」

ゴンが笑顔で言いながら、私の隣に並ぶ。ちょっと会話しただけなのに心配してくれたなんて、なんて心の優しい子なんだろう。レオリオといい、クラピカといい、一緒に合格したいなあ。
胸が温まるのを感じながら、私も笑顔で答えた。

「ありがとう。レオリオとクラピカも後ろの方にいるよ」
「そっか! 良かった!」

ニコニコと笑い合っていると、唐突に視界が白みがかったことに気が付く。すぐ傍にいるはずのゴンが少し霞んで見える。ただでさえぬかるみで進みにくいのに、霧が出てきたようだ。
ゴンの隣を走るキルアが、「もっと前に行こう」と言った。
「ヒソカのヤツ、殺しをしたくてウズウズしてる。ーーオレは同類だからわかるんだ」





キルアに言われた通り、先頭集団を走り始めて数分。後方からは時々叫び声が聞こえてくる。
湿原に潜む生き物に騙されたのか、キルア曰くウズウズしているヒソカにやられたのか……。
ナマエはゴンを挟んで反対側を走るキルアを伺い見た。涼しい顔で、汗一つかかずに走っている。

彼はヒソカと自分を同類だと言った。11歳の少年が、私の目から見ても異常だとわかる男と同類だと。
ヒソカは試験前に、何の気兼ねなく、特に関わりのない人の両腕を奪った。そしてつい先ほど、試験官に向けて迷いなく凶器を放った。そんなことが出来る人間と同類。正直に言うと、信じられないし、同時に恐ろしく感じる。
なんだか目が離せなくて、横目で見ながら足を動かす。一層濃くなってきた霧に見え隠れしながらも、キルアの目が一瞬、私を見返した。

「!」
「ってえー!!」
「レオリオ!?」

どきりと鳴った心臓に、一瞬反応が遅れた。だが確かにレオリオの叫び声が聞こえた。
私がワンテンポ遅く振り返った時には、ゴンは後方に向かって走り出していた。

「っ! ゴンっ!」
レオリオの身に何かあったんだ。志望動機を照れくさそうに語った姿が、頭をよぎる。いてもたってもいられず、私もゴンに続いて踵を返そうとした、その時。
「だめだ」
腕を強く、キルアに掴まれていた。

「えっ?」
「こんな霧の中戻ったら、二度と追いつけなくなるぜ。それに、ヒソカはマジでヤバいからあんたは行かないほうがいい」

キルアは横目で私を見ながら言う。止められたのが意外で、何も言葉を返せなかった。
一度だけ背後を振り返ったが、真っ白な景色のなか、ゴンの姿は最早どこにも見えない。今更追いかけたところで無駄だと悟り、三人がどうか無事であることを祈った。

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