1971年 9月1日

小さな頃から本が好きだった。私を物語へと誘ってくれる。本の中では、わたしも主人公のように勇敢だったり、類稀なる素質の持ち主だったり、頭脳明晰でスポーツ万能だったりするのだ。
昨日読み始めたばかりの本を夢中で読み進めていた。廊下を上級生らしき生徒がパタパタと駆け抜けていく。閉まりの悪いコンパートメントの扉がガタガタと揺れ、ふと集中力が途切れた。少し視線をあげると、じっと見つめる緑色の瞳が見えた。

「…なあに?」
「あっ、邪魔しちゃってごめんなさい!面白そうな本だなあと思って!」

首を傾げて尋ねると、緑色の瞳の持ち主は、焦ったようにパタパタと手を振った。

「でもせっかくコンパートメントに入れてもらったし、ちょっとお話しない?ああ、もちろん読書に集中していたならいいんだけれど!」
「ううん、もちろんいいよ」

ナマエはぱたんと本を閉じた。本が好きだからと言って、誰かとお喋りするのが嫌いなわけではない。
目の前に座る少女は、ホッとしたように微笑んだ。

「私リリー・エバンズ!」
「私はナマエ・ミョウジ!」
「ナマエね、よろしく!」

リリーと私は握手を交わすと、リリーの隣に座る少年へと視線を移した。

「…セブルス・スネイプ」
「よろしくね、セブルス」
「セブルスと私はね、幼馴染なの!」

リリーは屈託のない笑顔を向けると、私とセブルスの手を取った。
私たち二人がきょとんとしているうちに、お互いの手を握らせ、「私たち三人、仲良くしましょうね!」と笑った。





1991年 9月1日

毎年毎年、この時期になると思い出す。不安と期待が入り混じったあの日の気持ち、輝かしい未来が待ち受けていると信じて疑わなかったこと。ホグワーツで出来た最初の友達であり、一番の親友となった、あの美しい人。

(あ)

ナマエは本を並べていた手をピタリと止めた。背表紙に指を這わせ、今しがた並べたばかりの新しい本を一冊取り出した。
表紙を撫でていたナマエの元に、上司であるマダム・ピンスがやってきた。

「あら、ミス・ミョウジ、その本が何か?」
「あー、いえ、懐かしい本だなあと思って」

マダム・ピンスはナマエの手元に目を落とし、その表紙を見るとにこりと笑った。

「そうでしょうねぇ。この本はあなたが子どもの頃に人気だった本だわ。最近新版が出たのよ」
「ああ、それで今回入荷されたんですね」

ナマエは愛おしそうに、刷り込まれたタイトルに指を這わせた。

「この本は、わたしが入学式の日に、コンパートメントの中で読んでいた本なんです」
「あら、素敵ね。今日にぴったりだわ」
「はい。思えば、この本からすべて始まったように思えます」

何度も何度も反芻した記憶が、鮮明に蘇る。
この本から視線をあげると、燃えるような赤毛と緑色の瞳をした少女が居た、あの日。
そう、視線をあげるとーー。

「さあさあ、思い出に浸るのも結構ですが、新入生がやってくる前に作業を終わらせてくださいね!」
「…は、はい」

ずいと顔を寄せたのは、あの日の少女ではなく、禿鷹のような鋭い瞳のマダム・ピンスだった。
ナマエに注意を告げると、すたすたと自分の持ち場まで戻って行く。
その後姿が見えなくなると、なんだか笑いが込み上げ、頬を緩ませながら作業を再開した。

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