「…………また、会えるよね、…………」

頭の奥がキンと鳴る。霞がかかったような思考のなか、誰かの声が聞こえる。囁くようなそれはうまく聞き取れなくて、耳を澄まそうにも耳鳴りが邪魔をする。

「…………探すよ、絶対、…………」

今度は違う声。耳鳴りは鈍痛に代わり、脳が揺さぶられるような痛みに立っていられず、目も開けられずにへたり込んだ。
早くこの痛みが過ぎ去るように祈ることしか出来ない。どのくらいそうしていただろう。波がスッと引くように、痛みが遠のいていった時、誰かが蹲る私の肩に触れた。


「おい、君、大丈夫かい?」
「えっ?」

途端にクリアになった思考回路に驚きながら、パッと目を開けて振り向く。優しそうなおじさんが、心配して声を掛けてくれていた。腰を屈めて伺うおじさんの後ろは雑踏で、ガヤガヤとした話し声や靴の音にその時気が付いた。行き交う人々はしゃがみ込む私をチラチラと見ながら歩き去っていく。

「立てるかい?」
「あっ、はい」

人混みの中、道のど真ん中に座り込んでいることに気付き、慌てて立ち上がった。おじさんが手を貸してくれたけれど、自分でも驚くほどスムーズに起き上がる。ふらつきもないし、先ほどまでの痛みもない。どうしてあんなところでしゃがみ込んでいたのか疑問なほどだ。

「具合が悪いのなら病院に行ったほうがいい」
「い、いえっ! 大丈夫です!」

見ず知らずの人に心配を掛けてしまった。慌てて顔の前で手を振り、ペコペコと頭を下げた。

「まあ、顔色は良さそうだが……。どうしてあんなところに一人で? どこから来たんだい?」
「……どこから……?」

尚も心配そうにこちらを伺うおじさんの顔を、失礼なほど真正面から凝視した。
目を丸くする私に、彼も不思議そうな顔をする。私はその質問には答えられなかった。どこから来たのか、何をしていたのか、全く思い出せなかったからだ。記憶を探っても、そこは空っぽ。動転した私の口から出たのは、ベタな台詞だった。

「此処は……どこ?」

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