8


船は何事もなく首縊島へ到着する。――とはいかず、船の上で予選が開かれたり、それに覆面が圧勝したり、激昂した妖怪たちに命を狙われたりしたが、特に問題にはならなかった。いま船の上で立っている(一人は寝ているが)のは、浦飯チームの6人と船長だけだ。
私は最後に襲いかかってきた妖怪をはじき飛ばすと、静かになった周りを見回し感嘆の声を上げた。

「幽助から聞いてたけど、みんな強いねぇ」
「ミョウジもめちゃくちゃ強いじゃねぇかよ! 何匹ぶっとばした!?」


心からの賞賛に、桑ちゃん(親しみを込めてこう呼ぶ事にした)が驚きの表情で返してくれた。
この修行で身につけた基本的な戦闘法は、おばあちゃんに見出だされた“反発リペル”を主においたものだ。
相手の霊力や妖力での攻撃をはじき返し、相手にぶつける。しかしこの能力は、肉弾戦など霊気や妖気を使用しない戦いには使えない。だから自身の霊気を飛ばす技も身につけた。幽助の霊丸には格段に劣るが、この程度の妖怪たちには効いたようだ。


「ナマエで良いよ。桑ちゃんの霊剣?もかっこいいじゃん」
「お、そうか? ナハハハハ!」
「フン、くだらん」
「そろそろ見えてきましたよ」

蔵馬の声に船先へ目を向けると、会場となる孤島が近付いていた。





霊界探偵補佐ナマエの啖呵





「うわー、良い部屋!」

ボーイに案内された部屋は、これから始まる恐ろしい大会を忘れてしまうほどに綺麗で豪華だった。桑ちゃんと一緒にきゃいきゃいと見て回る。いまは暗闇に包まれているが、窓を開ければ波音が聞こえる。おそらくオーシャンビューなのだろう……まあ、海に浮かぶ孤島なのだから当然か。

幽助は相変わらずぐうぐうと眠っている。他の皆がボーイが運んできたコーヒーを飲み、くつろぐ中、私は腰はおろさずトイレに向かう。
ふとトイレの前に立つ人物に気が付き、目が合ってパチリと瞬きをする。一拍置いて、彼が放つのが妖気だということに気付き、遅ればせながら喉の奥から叫び声がわき上がった。

「……ぎ、っ!」

叫び声が口から飛び出す前に、目の前の男に封じられてしまった。
ギロリと睨みつけ威圧する彼に何も言えず、ただただ冷や汗を垂らす。
おーい幽助くん、今まさに私ピンチ!!

ズズー、とコーヒーをすする音がして、部屋に緊張が走った。私は見知らぬ男に口を押さえられたまま、反対側に目を移す。そこにはただの子どもにしか見えない、可愛らしい男の子。どうやら私たちが気が付かないうちに部屋に侵入し、コーヒーを盗っていったらしい。鈴駒というらしい彼を、警戒心むき出しでみんなが睨みつける。いや、早くこっちに気が付いて!

「……そこの可愛いお姉ちゃんも、弱い仲間で可哀想だねぇ」

鈴駒が大きな目を私に向ける。そこでようやく、みんなの目線がこちらを向き、私を拘束している男を射抜いた。

「テメェ! ナマエをどうするつもりだ!」

桑ちゃんが拳を握って怒鳴る。全員が臨戦態勢を取る中、是流と呼ばれた男は緩慢な動作で私の口から手を離した。

「心配せずとも、お前たちが死ぬのは明日だ。いま殺す気はない」

是流がそう言っても、みんなの警戒はとかれない。私はやっと解放された口で呼吸を繰り返し、ひとまず距離を取ろうと足を引いたが、それは足下に寄って来た鈴駒に阻まれた。
彼は妖怪とは思えない無邪気な顔で、口元に笑みを浮かべながら問う。

「お姉ちゃん、ナマエっていうのかい? こーんな鈍い奴らとチーム組むのやめて、オレたちについたらどぉ?」
「なんだと、このチビ!」

怒りをむき出しにする桑ちゃんが面白くて仕方がないのだろう。鈴駒は私を勧誘することで彼等を煽るつもりなのだと分かった。
しかし私は、鈴駒の瞳を真っ正面から捉えるとキッパリと宣言した。

「悪いけど、私は浦飯チームのミョウジナマエよ。明日はうちが勝たせてもらうわ」

勝利宣言を聞いて、二人の雰囲気がピリッとしたものに変わる。桑ちゃんが心配そうに慌てているのが視界の端に映ったが、私は引かず、じっと見つめ続けた。

「……へぇ。自信あるんだ? お姉ちゃん、強いの?」
「もちろん」

挑発するような鈴駒の笑みに、同じように口角を上げて返した。

「勝つに決まってんじゃない。
……コイツらが」
「オイ」
「なによ、自信ないの?」

そうじゃねーだろ、と呆れる桑ちゃん。是流はどこか緊張がほぐれた部屋をぐるりと見渡し、フンと鼻を鳴らすと鈴駒を引き連れて出て行った。
その後ろ姿を見送り、扉がパタンと閉まるのを見届けたあと、私は床に膝をついた。


「……び、びびった〜〜〜〜」
「威勢だけは良いようだな」

飛影が冷たい視線を向けてくるが、私もまさか、妖怪相手にあんな啖呵切るとは思わなかった。
多分、鈴駒の無邪気な雰囲気や少年のような見た目に気が大きくなったっていうのも、理由の一つだ。
でも、それだけじゃない。

「だって、他のチームになんて入りたくないし、明日は絶対、みんなが勝つんだもん。そうでしょ?」

私は浦飯チームとして、ここに来たんだ。人間界代表だなんて自覚はそれほどないけれど、幽助たちの仲間であり、みんなが勝つって信じている。
正直言うと、蔵馬や飛影、桑ちゃんのことはそれほど知らないけれど、幽助が仲間だという彼等を信じたい。

私の問いに、苦笑する者が二名、そっぽを向くものが一名、表情の見えない者が一名、夢の中の者が一名。
この六人で、生き残る。

/ top / →
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -