7


時は矢のように過ぎていった。
血のにじむような修行を終え、少しは強くなれたような気がする。そんな手応えを感じながら、私は幽助・覆面と並んで鬱蒼とした森を歩いていた。
ついに暗黒武術会が行なわれる、首縊島へと向かうのだ。





霊界探偵補佐ナマエの合流





歩を進める度に胃が鉛を飲み込んだように重くなっていく。震える手を握りしめ、唇をギュッと結び喋らない私に、「緊張しすぎだろ、オメー」と幽助が笑った。
幽助がリラックスしすぎなだけで、普通の人間は緊張すると思う。
森を進むたびに今まで感じた事のない匂い――瘴気というらしい――が濃くなっていくのだから無理もないだろう。
それに、緊張する理由はもう一つ。

「他の仲間だって全員初対面なんだから、緊張もするってば」
「全員ってこたねーだろ」
「え?」
「ん?」

サラリと返された言葉に、その意を掴めず聞き返す。すると目を丸くした幽助が、きょとんと私を見つめ返した。

「……あり?オレ言ってなかったっけ?」
「何を?」
「てめーおせーぞ浦飯!……ん?」


幽助が笑ってごまかそうとした時、明かりの漏れる前方から聞き覚えのある声が聞こえた。
驚いて視線を向けると、私以上に目を見開いた、クラスメイトがそこにいた。

「ミョウジ!?」
「……桑原くん?」

そこにいたのは桑原くん。「なんでここに!?」と慌てふためくその背後には、見た事もない姿形をした妖怪がうじゃうじゃと居て、その全ての視線が自分たちに集まっている。だが衝撃が上回り、恐怖は感じなかった。

「オイどういうことだよ浦飯!」
「説明すると長くなるんだって。コイツは六人目だから。マネージャーみてぇなもん」
「六人目?……じゃああそこのチビが五人目か」

いきなり幽助に切り込んでいた背の低い男が、三白眼を覆面に向けた。
正体不明のその人物は黙りこくっている。――とはいえ、どう見てもおばあちゃんだよね?背丈も服装もいつもと同じだし。どうして正体を隠しているんだろう。

私たちは妖怪の視線を体中に浴びながら、船長に促され船に乗り込んだ。



「改めまして、ミョウジナマエです。一回死んで霊界探偵補佐に任命されました。治療係として六人目に控えてます、よろしくお願いします」

海を進む船の上で、私はペコリと頭を下げた。
ガヤガヤとうるさい船上は、見渡す限り妖怪でごった返している。ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてこちらを見る者も多かったが、気にしないことに決めた。
手摺に背中を預けた桑原くんが、フゥとため息をついた。

「どうりで霊気が格段にアップしていたわけだぜ。前までは何にも感じなかったのにおかしいなと思ったんだ。
それに最近、お前ちっとも学校来なかったしよ」
「うん、幽助と一緒に修行するのに忙しくって。私も桑原くんのこと何にも知らされてなかったから……」

恨みを込めて幽助を見ると、なんと船に乗って早々、眠りこけている。
コイツ……守るとか言っておいて……。
落書きしてやろうかなと思っていると、長い髪に整った顔の、とても妖怪とは思えない人――蔵馬が私の隣に立った。


「霊界探偵補佐というのは、コエンマの令ですか?」
「うん、そう。まだなんにも仕事はしてないんだけど」

初仕事の前に、こんなとんでもない武術会に来てしまったもので。

「控えと言っても、大会では何が起こるか分からないぜ。自分の身は自分で守れるんだろうな」
「飛影」

三白眼の彼――飛影が、手摺の上から私を見下ろした。蔵馬が咎めるような声を出すが、言っていることは間違っていない。彼等は命を掛けて戦うのだ。

「一応、治癒力以外にもある程度の修行はしてきたつもり」
「フン。精々足手まといにはなるなよ」
「飛影、テメェなぁ!」
「いいの」

桑原くんを遮った私に、視線が集まる。
私は口角を上げて笑ってみせた。

「私だって覚悟を決めてきたんだから」

守られるだけではないんだってところを見せて、信頼を勝ち取らなくっちゃ。

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