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一月もたてば、学校と修行のハードスケジュールにもそれなりに慣れてきた。
いまは生傷の絶えない浦飯くんを実験台にして、治癒力の向上を図っているところだ。
傷だらけの腕に手を添えて念じると、手の平がじんわりと熱く光りだす。黙ってそれを見ていた浦飯くんが、ふと口を開いた。

「あれから一ヶ月たったけどよ、お前も強くなったよなぁ」
「またまたぁ。浦飯くんのほうがよっぽど強いじゃん」
「……その浦飯くんっての、やめねぇ?」

ポツリと出された提案に、思わず集中を解いて顔を上げる。きょとんとする私に、浦飯くんは照れくさそうに視線を逸らし頬を掻いた。

「学校の奴ら以外にそんな呼び方する奴いねぇからさ。なーんかムズ痒いっつーか」
「だって私、学校の奴らだもん」
「……元々はそうだけどよ、今はちげーだろ」

尚もきょとんとする私に、浦飯くんは言いよどみながら口を開いた。

「……仲間だろ?」





霊界探偵補佐ナマエの覚悟





照れながらも言ってくれたその言葉が数日たった今でも嬉しくて、緩む頬をこらえて石段を駆け上がる。まだ慣れない「幽助」という呼び名もなんだかこっぱずかしいが、まあそのうち慣れるだろう。
おばあちゃんと幽助は、いつも通り道場で修行中だろう。早く制服から着替えて合流しようと、茶の間へと続く襖を開けると、二人が座って何やら話し込んでいた。

「あれ、珍しい。休憩中?」

鞄を隅に置き尋ねると、二人の視線が上がり私を見る。神妙な面持ちのおばあちゃんが座布団を指差した。

「ナマエ、あんたもそこ座んな」

予想外に真剣な瞳を向けられ、不思議に思いながらも腰を下ろす。
机を挟んで向かいに座る幽助は、なんだか気まずそうな面持ちで私を見ていた。


「ど……どうしたの?」
「単刀直入に言うよ。ナマエ、お前にも暗黒武術会に出場してもらいたい」


電流を浴びたかのように体が強ばる。
呑気な感情を見透かされ、頭を殴られた気分だった。


「なん……なんで?」
「お前は幽助のパートナーだろう。安心しな、試合に出ろとは言わないよ。怪我をしたコイツらの治療にあたってもらいたいのさ。ただ、観客席にいたって意味ないからね、補欠の六人目として登録して、控えに居てほしいのさ」

試合に出るわけではない。その言葉に一先ず安堵するが、六人目だって十分危険なことは理解している。
私は霊界探偵補佐という役目をあまりにも軽く捉えていたのかもしれない。戸惑い言葉に詰まる私に、幽助が頭を下げた。

「巻き込んじまって、悪いと思ってる。でも、ナマエにも来てもらいてぇんだ。
一緒に戦う奴らさ、スゲェ良い奴なんだ。まあちょっと無愛想なのもいるけどよ……オレに付き合っちまったばっかりに今回の大会に呼ばれたんだ。危険なのはこの際しゃーねーにしても、やっぱ怪我してほしくねーしよ」

いつになく真面目な顔で、最後のほうは照れたように首筋を掻きながら紡ぐ。その言葉は、私の胸に突き刺さる。

「お前も危険な中に身ぶちこむんだから覚悟がいると思うけど、約束するよ。ぜってー怪我させたりしねぇ」

瞳に嘘も陰りもない。彼の言葉に、何故だか泣きそうになり、恥ずかしくもなった。
甘ったれた逃げ腰の私とは違う、彼の真っ直ぐな意思が眩しい。
何も言えず俯く私の肩を、幽助の手がポンと叩いた。

「無理にとは言わねぇからよ。
…ま、前日ぐれーには返事くれや」


幽助は部屋を出ようと立ち上がった。私はそれを阻み、彼のTシャツの裾を握った。
引っ張られたことに気付き振り向いた幽助に、ようやく顔を上げ、情けない笑顔を見せる。


「強くならなきゃ。足手まといにならないように」


もう学校なんて行ってる暇ないなあ。
そういう私に、幽助は本当に嬉しそうに笑ってくれた。

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