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「キキキキキ、キスぅ!?」


死んだと聞かされた時よりも、よっぽどテンパった私の声が部屋中に響いた。





霊界探偵補佐ナマエの誕生





「なあに、人工呼吸みたいなもんさね」
「だからオレはクソババアがやりゃあ良いって言ってんだろ!?」

ぼたんの説明を黙って聞いていた浦飯くんが立ち上がり、そう言った。だが幻海さんは指をたて「チッチッチ」と舌を鳴らすと、分かってないなと首を振った。

「ナマエだってこんな老いぼれ婆さんのエネルギーより若い男のほうが良いに決まってんだろう?」
「テメェのどこが老いぼれだ! さっきオレの腹に五発入れやがった癖に!」
「そりゃあ浦飯くんのほうが嬉しいですけど、」
「何言ってんだオメー!?」

正直に言う私に、ボフッと音がするほど赤くなった浦飯くんが目を見開く。
だって幻海さんには失礼だけど、今日会ったばかりのお婆さんと浦飯くんなら、浦飯くんのほうが良いんだもの。

「コエンマも幽助がやると良いって言ってたしねぇ」
「コエンマもテメーも面白がってるだけじゃねぇか! ぼたん、お前がやれ!」
「なに言ってるんだい、あたし人間じゃないよ」

かなり動揺してる様子の浦飯くん。
幻海さんもぼたんも駄目で、頼りを失うと玄関へ向かい走り出そうとする。それをぼたんが慌てて止めた。

「若い男のエネルギーが良いっていうなら、いまから桑原連れてきてやる!」
「あ〜待ってそれは駄目だよ! 今から桑原くん探して連れてきてちゃ今日中に間に合わないかもしれないだろう!?」
「そうだよ、それは困る! 六十年も待てないもん!」

顔色を青くする私と、私の体を見比べ、また焦ったように口ごもった。

「でもっ……〜」
「なんだい青臭いね、さっさとやっちまいな」
「ナマエも幽助なんかじゃ嫌かもしれないけど、我慢しておくれ! 今からじゃ間に合わないんだよ〜」
「ぼたんテメ……」
「だから嬉しいけど」
「嬉しいとか言うなテメェはぁ!!」

私の言葉に更に顔を赤くする浦飯くんの肩を、ぼたんがポンと叩いた。

「良いじゃないか! こんな可愛い子とキスできるんだから」
「そういう問題じゃねー!」
「これからパートナーになるんだろう?」
「それも関係ねー!」


これじゃあ埒があかない。言っている間に時計は進み、私は焦りながら浦飯くんの腕を掴んだ。
私に腕を掴まれた途端、顔を強ばらせこちらを見る。

「御託は良いからとっととキスして!!」
「お前そんなキャラだっけ!?」
「女は度胸とその場の勢いよ!」
「そうだよ、お前はこれから死闘にいくっていうのに度胸がなくて良いのかい? ナマエを見習いな」
「ホラ早くしないと! 次は六十年後だよ!」
「お願い浦飯くん! 私の人生かかってんの!」

両手を合わせお願いすると、逃げ場がなくなった浦飯くんの目が泳ぐ。

「っ・・・」
「ホラホラ早く! ナマエ(の体)の傍に行きな!」
「〜〜〜っ」
「ぱっとじゃちゃんと入るかわからないからね、最低十五秒は口づけるんだよ!」
「くそっ……」


女三人に押された浦飯くんは、やっと観念したのか私の体の傍に座った。
しばらく頭をかきむしっていたが、とうとう腕を私の顔の両側に下ろす。
自分がキスされる様子を見るのはなんとも複雑だ。
しかも隣で、二人もじっと見てるし……。

私が心の中で呟くと、浦飯くんはピタリと動きを止めた。


「……ババアとぼたんは出てけ」
「ちっ……」
「さすがに気付いたねぇ……」


文句を言いながら出て行った二人が襖を閉じると、浦飯くんはチラリと私を見た。
あんな啖呵を切ったくせに、いざとなると緊張してきた私は、目が合うと心臓が握りつぶされるような感覚に陥る。

「……ほんとにオレで良いのか?」
「いやっあの、うん……はい……」

こんなに恥ずかしい質問は受けたことがない。体中の熱が顔に集まるのを感じながら、やっとの思いでそう答えた。
浦飯くんは「そうか……」と呟いて一度顔を背けると、再び顔を近付けた。


それからはたった少しの距離なのに、時間がじりじりと流れた気がした。
浦飯くんの唇が私のそれに触れる瞬間、耐えきれずに目を固くつむった。
それと体が引っ張られるのは同時で、気が付けば唇に暖かい吐息を感じた。


(……長い……ぼたんの忠告真に受けて十五秒数えてるんじゃ……)

たったの十五秒なのに、酷く長く遠く感じた。そうして浦飯くんの唇が離れると、私はゆっくりと瞼を開く。
目の先には赤い顔。


少しの間視線がぶつかって、澄んだ瞳の中に赤い顔をした自分が見えた。
それからすぐに浦飯くんは口元を手で覆い、立ち上がり襖を開けた。

ゴンッ「痛ーい!」という声がしたから、隙間から覗いていたぼたんと幻海さんが居たのだろう。
私はというと、赤い顔を布団に引っ込ませ、うるさい心臓が鳴り止むよう必死に祈っていた。

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