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「やっと来たね。待ってたよ」
出迎えてくれたのは、小柄なお婆さんだった。
人里離れた山奥にその家は建っていた。浦飯くん、私の体を抱えてここまでくるの大変だっただろうなぁ。あとで御礼言わなくちゃ。
幻海との挨拶もほどほどに済ませ、長い廊下を進み和室に入る。そこには数時間ぶりの浦飯くんと、布団に寝かされている自分の体がいた。
「さて、まずは生き返らないとね」
平凡女子ナマエの復活
「あ、浦飯くん。体を運んでくれてありがとね」
「……おう」
早速御礼を言う私に、何故だか浦飯くんはこちらを見ようとしない。ふてくされたような顔で、視線を下方向に泳がせている。
なに?お前重いんだよクソ疲れたじゃねーか的なお怒り?だとしたら失礼だな。
最近計っていなかった体重に重いを馳せていたが、幻海さんがニヤニヤとしていることに気が付いた。
「なに照れてんだい幽助、ヤラシイねぇ。じゃあさっさと始めようとするかい?」
「ちょっ……待てクソババア!」
「あの、どうやって生き返るんですか?」
私が何気なく疑問を口にすると、幻海さんと浦飯くんは驚いた顔を見せた。
思いがけぬ反応に首を傾げる。
「コエンマに聞いてないのかい?」
「そういえばあたしも聞いてないねぇ」
ぼたんもお茶をすすりつつ答えた。
「まったくなにやっとるんだかアイツは……。」
幻海さんはため息をつくと、チラリと浦飯くんを見た。
そしてまたニタニタと笑う。
「どうだい幽助、お前から説明してみな」
「なっ!? ンだとクソババアー!! んなこと出来っか!」
「おや、厳しい修行を耐え抜くにはプライドを捨てなくちゃあいけないときもある」
「そんなの関係ねー!」
なぜだか顔を赤くした浦飯くんが、意地悪く笑う幻海さんに食ってかかる。話が全く飲み込めない私はただただその様子を眺めていたが、隣のぼたんは納得したように手の平を叩いた。
「あーなるほどね! でも幽助がそれをやるかねぇ」
「えっなに? 教えて?」
私がぼたんを問い詰めようとした矢先、浦飯くんが大きな声を上げて、固められた髪をかき乱した。
「だーッもうわーったよ!! 説明すりゃ良いんだろっ」
「物分かりが良いじゃないか」
幻海さんが茶化したような声を出す中、浦飯くんは私の前まで来て、ドスンとあぐらをかいた。
意を決したように大きく息を吸うと、ここに来てから初めて、私と目を合わせる。
「だからよ、オレがオメーに……」
「うん」
「その……なんだ……」
「……うん?」
「〜っ……」
浦飯くんは耳まで染めると、目をキョロキョロと泳がせ、顔を逸らしてしまった。
なにで照れてるのか分からないが、そんなに照れられるとこっちまで恥ずかしくなってくる。
「あのー……なに?」
「〜〜〜っあーっやっぱ無理だ! ぼたん! テメェが説明しやがれ!」
「なんだい意気地なしだね」
「しょうがないさねー」
浦飯くんはぼたんに押し付けると、部屋の隅で背を向けて座り込んでしまった。
後ろを向いていても、彼の顔が赤いことがわかる。煙がでそうだ。
「あのね、ナマエの体はいま、心臓は動いているけど霊体が戻る切っ掛けが足りない状況なんだ」
「切っ掛け?」
「そうさ。一度死んだ人間が生き返るには、生きている人間の生命エネルギーが必要なんだよ」
「ふんふん、それで?」
「生命エネルギーを口から吹き込んでもらう。そうすると、ナマエは生き返ることができるのさ」
「……」
徐々に理解しだした私の脳が、とんでもない結論を出した。
「つまり幽助がナマエにキスするって話だよ」
「えええぇ!?」
私の叫び声が、森に木霊した。
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