2


「ああ、霊界の閻魔大王は鬼みてぇな大男だからな。気を付けろよ」


去り際に浦飯くんが呟いた言葉が頭の中を回っている。なにやらニヤニヤとしていたのが気になるが、聳え立つ重厚な扉を見上げる私の心臓は早鐘を打っている。
閻魔大王といえば、言わずと知れた地獄の番人。舌を引っこ抜かれるやら、それはそれは恐ろしいイメージだ。重々しい音を立てて開く扉を、ゴクリと固唾を飲んで見守ったあと、その先で軽く手をあげる人物に目がとまった。鬼みたいな、大男―――


「このちんちくりんが地獄の番人?!」


思わず吹き出したのは不可抗力である。





平凡女子ナマエの霊界デビュー





「ちょっとちょっとナマエ! あんた失礼だよ! 指差して笑うなんて!」
「だって、こんなっ……めっちゃビビって来たのに、おっ、おしゃぶりって……! ヒー!!」

腹千切れる!!
浦飯くんのニヤニヤ顔の意味がわかり、笑いがおさまらない私の前ではコエンマ様(笑)がムッツリとした表情で米神に青筋を立てていらっしゃる。「ぼたん、なぜこういう質のヤツばかりハプニングを起こすんだ」「こういう質所以ですかねェ」とか聞こえるけど、偉そうに喋るその口にはおしゃぶりが咥えられているし、机の上で組んでいる手はぷにぷにとした可愛らしい手だ。恐ろしい想像と180度違うその姿に一頻り笑ったあと、目尻に浮かんだ涙を拭って向き直った。

「はー、笑い死ぬかと思った」
「もう死んでおるがな」

ハァー、とそのルックスとはかけ離れた深い溜め息をつくコエンマ。触りたくなる柔肌の眉間には皺が刻まれている。
そうだ、私死んでたんだった。そして笑っている場合ではない、生き返れるかどうかの瀬戸際なんだった。
私は気を引き締めて、コエンマに向き直る。


「それで、私は生き返れるの?」
「ああ、可能だ」
「それじゃあこの子にも、幽助と同じ試練を?」

ぼたんが尋ねた言葉に、浦飯くんの「試練を受けて生き返った」という言葉を反芻する。
ゲ、試練ってどんなのだろう。痛いのは嫌だなあ。
途端に不安になるが、コエンマは首を横に振った。

「いや、今回は試練は行わん。その代わり、一つだけ条件がある」
「……条件って?」

緊張が走る体で、ゴクリと唾を飲み込む。

「実は幽助はいま、霊界探偵として活動している。その手伝いをしてほしいのだ」
「……手伝い?」

恐ろしい想像(体の一部を寄越せ、とか)をしていた私は拍子抜けすると同時にホッと息をついた。
それにしても浦飯くんがこんな摩訶不思議なことに関わっていただなんて、驚きだ。

「お前には霊界探偵補佐として、幽助と行動を共にしてほしい。偶然にも同じ学校に通っているのだ、情報も共有しやすいだろう。どうだ?」
「よくわかんないけど、それで生き返れるならお易い御用よ」
「よし、その言葉忘れるなよ」

ニヤリと笑ったコエンマの顔に、何故だか少し寒気が走った。


「さあ、幻海の家に急げ。お前の体も幽助もそこにいる。実は周期の関係で、お前が生き返るには今日を逃すと六十年後だ」
「ろろろろくじゅう!?」
「この周期の長さも、試練ではなく条件にした理由の一つだ。さあ、とっとと生き返って幻海に修行をつけてもらうんだぞ」


なんだかコエンマの思惑通りになっている気がして腹立たしい。だが、文字通り私の命運がかかっているのだ、そうも言っていられない。
私はぼたんと一緒にオールに飛び乗ると、幻海さんという人の家を目指し、夕暮れの空を飛んだ。

/ top /
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -