1971年

ホグワーツでは飛ぶように時間が過ぎていく。毎日リリーと食事をとり、授業に出て、課題に追われるうちに、入学式から一ヶ月が過ぎていた。
そんな中でも、放課後や休日は図書室に通い、ホグワーツにおさめられた様々な本を読みふけった。それはナマエだけではないようで、セブルスとは時々、湖岸で並んで読書に励んだ。(セブルスの隣に、ナマエが勝手に腰をおろしているだけだが。)

今日も二人共、キラキラ反射する水面の前で、木の幹に背中を預け本を読んでいた。会話と言えば挨拶くらいのものだったが、お互い本の世界に没頭するには好都合だった。

ふと、視界の端にうつっていたセブルスが顔を上げたので、ナマエも本から目を離した。

「やあ。今日も読書かい、セブルス」
「ルシウス先輩」

スリザリンカラーのネクタイを身につけた、上級生らしき男子生徒が立っていた。胸元に光るPバッチを見て、セブルスの「よくしてくれる先輩」という言葉を思い出した。
薄灰色の瞳が、セブルスからナマエへと向き、ちらりとネクタイの色を確認した気がした。

「君はよく、セブルスと一緒に読書をしているね。友達かい?」
「はい。ナマエ・ミョウジです」
「これはこれは、失礼。ルシウス・マルフォイだ」

恭しく自己紹介をしたルシウス先輩は、セブルスに「ではまたあとで」と声を掛け、城内へと戻って行った。

「…優しい先輩、なのね?」
「…まあ、な」

なんとなく疑問系になってしまったが、面倒見のよい人なのだろう。こうしてセブルスに声を掛けていることが、何よりの証拠だ。
どこか腑に落ちない自分に首を傾げながら、ルシウス先輩の後ろ姿を見送った。



「あれ?どうしたの?」

セブルスに別れを告げ、読み終わった本を返しに図書室へと来たところ、扉の前で蹲っている生徒を発見した。
しゃがみ込んで顔を覗くと、青白い顔をしたピーター・ペティグリューだった。同じ寮の一年生ということしか接点のない生徒だ。

「ど、どうしよう、僕…」
「何が?…あらら」
「わ、わざとじゃないんだ…」

ピーターが声を震わせながら示したのは、真紅の表紙に真っ黒のインクが染み込んだ本だった。
どうやら汚してしまった本を返却しようにも、マダム・ピンスが恐ろしく、途方にくれていたらしい。
唇が紫色になるほど青ざめているピーターに、安心して、と声をかけ、杖先を本に向けた。

「テルジオ」

ナマエが唱えると、染み込んだインクが剥がれるように浮き上がり、杖に吸い込まれていく。本の表紙にも、念のためパラパラとめくった中にも、インクの汚れは残っていなかった。

「す、すごいよ!まだ習ってない呪文なのに、どうして!?」
「本をよく借りるから、覚えておいただけだよ」

興奮で頬を染め、尊敬の眼差しで見つめるピーターに、ナマエは何でもないことのように肩を竦めた。
この時からピーターは、なぜだか憧れの人物ーーージェームズとシリウスーーーに、ナマエも追加したらしかった。





1991年

「ナマエ、本の場所がわからないんだけど、聞いてもいい?」
「あら、ハーマイオニー。お休みだっていうのに熱心ね」

ナマエは毛ばたきを動かしていた手をとめ、声を掛けたハーマイオニーに向き直った。
今週はいつもの無茶な課題(特に魔法薬学の)が出なかったらしく、休日の今日は生徒の姿は殆ど見かけないというのに、ハーマイオニーはいつものように図書室に通っていた。
自分も学生時代はホグワーツの本を読み切る勢いだったので、ハーマイオニーも読書を楽しんでいることは嬉しい。ただ、一つ気にかかることは、ハーマイオニーが誰かと一緒に居るところをなかなか見ないことだ。

(こんなに可愛い子なのに、どうしてかしら)

頼まれた本を一緒に探しながら、その横顔をちらりと見た。人懐っこく話し掛けてくるところをみれば、一人で居ることが好きだとも思えない。お節介かもしれないがーーーいや、確実にお節介だがーーー本を引き出しながら、ナマエはいつも通りのトーンで話した。

「ハーマイオニー、今日はグリフィンドールがクイディッチの練習をする日でしょ?ハリーの練習は見に行かないの?」

さらりと聞いたつもりだったのに、ハーマイオニーの顔は瞬時に不満そうになった。

(あら、地雷かしら)
「私、あの二人のことは、もう放っておくことにしたの」

あの二人、とはハリーとロンのことだろう。むくれっ面で本をめくるハーマイオニーは、まくし立てるように続けた。

「あの人達って、校則を破ってばっかり!グリフィンドールに迷惑がかかろうがどうでもいいのよ!私はきちんと注意しているのに、聞く耳を持たないんだもの!」
「なるほどね」

フンと鼻を鳴らすハーマイオニーを見ていれば、大体のことは分かった。彼女からすれば彼らの態度は信じられないし、おそらく彼らからしても、彼女のことは気に食わないのだろう。
ナマエの「良い子たちなのよ?」という言葉に反論しようと、ハーマイオニーが一際大きく口をあけたときだった。
背後から、冷たい声がかかった。

「ちょっと、すみません。本をお借りしたいのですが?」

妙に気取った声に振り向けば、いつかのスリザリンの少年だ。薄灰色の瞳をナマエたちに向け、フンと鼻を鳴らした。
「ああ、こっちよ」とカウンターまで案内し、少年に向き直る。改めて見ると、どこかで会ったことのあるような気がした。

「…えーっと、利用者名は?」
「ドラコ・マルフォイ」
「…マルフォイ?」

ナマエがぽかんとしている間に、ペンは自動で貸し出しカードに「ドラコ・マルフォイ」と記した。
名前を呼ばれたドラコは、怪訝そうに片眉を上げた。

「なにか?」
「もしかして…ルシウス先輩の息子さん?」
「…父上をご存知で?」

それまで気取った態度をとっていたドラコは、ナマエがルシウスの知り合いだと分かると、横柄な態度を改めた。
知り合いというほどのものでもないがーーーそう思いながらもドラコを眺めれば、ルシウスにそっくりだ。
…ハリーやロンと馬が合わないのは当然かもしれない、と思った。

「まあ…お父様は元気?」
「ええ。ホグワーツの理事を務めていることはご存知でしょう?まさか父上のご友人だとは思いませんでした。手紙を出しておきますよ。あなたと知り合ったって」
「いやー、それはご遠慮したい…なんて…」

ナマエの言葉は届かなかったらしい。ドラコはぺこりと頭を下げると、本を片手に図書室を出て行ってしまった。
まさか「あなたのお父様苦手だったのよ」なんて言えるはずもなく、ナマエは困ったことになった、と溜め息をついた。

ーーーその翌々日、ルシウスから「君はグリフィンドールにしておくには惜しい逸材だった」と、喜ばしくない手紙が届くのだった。

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