1991年

新学期が始まって、今日で一週間だ。早速大量の課題を出されたらしい生徒たちで、図書室の席はポツポツと埋まるようになった。この時期のナマエの仕事は、新入生に本の探し方や借り方、返却の仕方を教えることと、今年こそは禁書の棚に入ろうと模索するウィーズリー家の双子を追い払うことだ(あまり効果はないが)。
カウンターで返却された本を整理していたナマエの元に、分厚い辞書を抱えた新入生がやってきた。

「この本もお願いできますか?」
「あら、ハーマイオニー。熱心ね」

ナマエはその生徒を見て、ニコリと笑って答えた。
名前を呼ばれたハーマイオニーは、少し驚いた様子で頬を染めた。

「名前、覚えてくださったんですか?」
「もちろん。この一週間で、あなたほど図書室に通ってくれた生徒はいないもの」

ほぼ毎日図書室に通い、様々な本を借りていくハーマイオニーの姿はとても印象的だった。ハーマイオニーは褒められると照れた表情を浮かべ、ありがとうございます、と言った。

「あとね、私は先生ではないから、そんなに畏まらなくていいのよ。ナマエって気軽に呼んでね。ああ、マダム・スミスにはダメよ」

貸し出し手続きを終えた本を差し出しながらウインクすると、ハーマイオニーはくすくすと笑いながら図書室を出て行った。


ナマエは時計に目をやり、休憩時間に入ったことを確認すると、マダム・スミスに一声掛けて図書室を出る。校庭を通り、禁じられた森近くの小屋へと到着すると、木で出来た戸を3回ノックした。
犬の吠え声がしたあと、扉が開く。

「おお、ナマエか」
「ハグリット、お招きありがとう。ちょうど美味しいクッキーが届いたところでーーー、」
「紹介しよう!ハリーとロンだ!こっちは図書室で働いちょる、ナマエだ」

ハグリットがその巨体を扉から退けると、影からハリー・ポッターと赤毛の少年が現れた。
何度も校内で姿を見ているとはいえ、突然のことに息をのんだ。控えめに挨拶をする二人の少年に、気を引き締めニコリと微笑んだ。

「ハリー、ナマエもな、お前さんの父さんと母さんの友達なんだ」
「えっ、本当に?あっ、本当ですか?」

ナマエとジェームズ、リリーの関係を、なんともなしにサラリと告げたハグリットに、ナマエは苦笑を漏らした。だが自分からはなんと言ってよいかわからなかっただけに、ほっとしたのも本心だった。
はじかれるようにナマエを見上げ、恥ずかしそうに口調をなおしたハリーに、ナマエは微笑みを返した。

「そうよ。二人ともとっても大切な友達だったわ。特にお母さんは、ホグワーツでのはじめての友達で、親友でもあるの。ほら、今のあなた達のような感じかしら?」

ナマエがロンとハリーを交互に見て言うと、二人は照れ臭そうな、嬉しそうな顔を見合わせた。

「それにね、私は先生じゃないから、ハグリットみたいに気軽に接してね」

先ほどハーマイオニーに伝えたことをもう一度言うと、二人は頷いてくれた。
ハグリットがいれてくれた紅茶を飲みながら、ロンが言った。

「僕、ナマエのこと知ってるよ。兄貴たちから、騒いでると注意されるけど、たまに一緒になって喋っちゃってマダム・スミスに追い出されるって」
「あら、フレッドたちの弟なのね」

恥ずかしい話をされているものだ。ナマエが少し顔を赤くして紅茶を飲むと、ハリーが楽しそうに笑った。
それから、この一週間の彼らのホグワーツでの生活、寮の仲間、授業への戸惑いーー様々な話を聞き、彼らを見送った頃には夕食の時間が迫って来ていた。
小屋の外に立ち、遠ざかる二人の背中を見送り、うーん、と伸びをする。

「どうだ、良い子だろう」

どこか得意気に言うハグリットに、ニコリと笑った。

「ありがとね、ハグリット。私とハリーを会わせてくれようとして呼んだんでしょ」
「なんでぇ、ロックケーキがうまく焼けたもんでな」

ぱっと視線をそらし小屋へ戻って行くハグリットに、くすくすと笑いを漏らした。





1971年

ホグワーツに入学して、一週間がすぎた。初めてのことばかりで戸惑うのは新入生みな同じで、入学式の翌日からは様々なことに頭を悩ませた。迷路のような校内、はじめて習う魔法、容赦の無い課題。毎日倒れるように眠りにつくので、大好きな読書もままならない。
そんな中、ずっと来たいと思っていた図書室へと足を向けていた。今日は午後から授業がないので、課題がてら本を借りようと思ったのだ。ホグワーツには今まで見たことのない本がたくさんあるに違いない。はやる心を抑えながら、少し駆け足で図書室へ入った。

(あ)

あまりひと気のない図書室で、教科書と睨めっこしている少年に、見覚えがあった。
シリウスやジェームズとよく一緒にいる、グリフィンドールの同級生だ。
彼はナマエの視線に気付いたのか、教科書から顔をあげるとふわりと笑った。

「やあ」
「こんにちは。…魔法薬学のレポート?」

ナマエは彼の手元に視線を落とすと、その内容を覗きながら尋ねた。
彼は苦笑しながら肩を竦めた。

「そうなんだけど、ちっとも進まなくて。」
「私も同じ課題をやりに来たの。一緒にやってもいい?」
「もちろん、大歓迎だよ」

人当たりのよい笑顔を浮かべながら、彼は「リーマス・ルーピン」と言った。ナマエも自身の名前を伝え、リーマスの隣の席についた。

「スラグホーン先生ってば、初日からこんなに課題出さなくてもいいのにね」
「まったくだよ。一人じゃ全然わからなくて、途方にくれてたところなんだ」

二人で苦笑した顔を見合わせる。お互い持ち寄った教科書を机に広げ、「よし、やるぞ」とリーマスが腕まくりをした。
ふと、ナマエの視線が彼の腕に落ちる。

「リーマス、家でペットかなんか飼ってるの?」
「え?どうしてだい?」

リーマスは羽ペンを持ったまま、不思議そうな顔をした。

「ここ、引っかき傷みたいなのできてるよ」

ナマエがリーマスのシャツから覗いていた、動物の爪痕のような傷を指し示した。
その瞬間、リーマスはがばっと腕を抑え、まくっていた袖をおろした。
きょとんとするナマエに、にっこりと口角をあげる。

「…近所に、猛犬がいるんだ」
「…そうなんだ」

そう言ったきり、会話は終わり、二人はレポートに取り組んだ。


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