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「#幼馴染」のBL小説を読む
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04




ずぶ濡れのまま玄関の前で立ち止まれば、ふん、と鼻を鳴らして笑われた。もとがうつくしく、それでいて大柄のリンリンがそうするので、ずいぶんと迫力があった。わたしはびくりと肩を震わせて、おそるおそるようすをうかがう。

「なんだい、さっきまでの度胸はどうした」
「いえ、その……」
「濡れるのなんざ気にするな。おれは汚れるのは嫌いだが、だからといって、外で素っ裸になれというほど酷い女じゃねえよ」

それもそうか、と納得して、わたしは家の中に入った。後日、彼女を怒らせた人に裸のまま土下座させるのを見たので、このときはたんに機嫌が良かっただけだということを知った。リンリンはとても気まぐれだ。
高い天井と、洋風の、靴を脱がない様式の家。壁に絵がかけてあったり、ところどころに花瓶が置いてあったりするので、ますます場違いであることを認識せざるを得なかった。みすぼらしい服の裾をつまみ上げて、給料をもらえたあかつきに真っ先に買うのは服だろうな、と思う。ペロスペロー、とリンリンが声を張り上げる。すると針金細工のような男が現れた。落ち着いた服装と整髪剤で寝かせた髪。大人びてみえるが、年齢はたぶん、わたしと同じくらい。

「おかえりママ。おや、そちらは?」
「さえこ。使用人にするために、そこで拾ったんだ」

挨拶しな、と顎で指示されて、素直に頭を下げた。その間じゅう、ペロスペローはしげしげとわたしをながめる。

「面倒をみればいいのか?ペロリン」
「そうだ。ゆくゆくはおれの付き人として使えるよう仕込め。部屋はおれの近くで、服は適当なのをやれ」

あらかたのことを告げると、リンリンはわたしを気に留めることなく階段をのぼってゆく。遠ざかってゆく背中。彼女の息子とはいえ、見知らぬ男と二人きりにされて、わたしは途方にくれてしまう。

「お前の名前は、さえこでいいのか?」

左腕の時計を見ながら、ペロスペローは言う。忙しい人なのだろう。はい、と頷く。

「まずは風呂だな。ついてこい、こっちだ」



お風呂に連れてゆかれ、そのあとは衣装部屋にあった服を与えられた。見立てはペロスペローだったが、ずいぶんかわいらしいものばかりを選ぶので、わたしは思わず、かわいいものが好きなのか、とたずねた。

「おまえは肝が座った女だな。妙なところで大胆不敵というか。まあ、ママが拾った理由は分からなくもねえか」

うすいピンクのブラウスを渡されて、ママの趣味だ、と言う。

「おれはもうすこし清楚なのが好きだ」

ペロスペローはシンプルな白のスカートと黒のスカートを目の前にかかげる。黒いほうに手を伸ばすが、すいと遠ざけられた。まるで白い方を選べといわんばかりに。

「今のは、こっちを選ぶべきだな。付き人になるんなら、ママの趣味だけじゃなくおれたちのも覚えろ」
「わかりました。ところで、ご兄弟がいらっしゃるんですか?」
「ああ、うちは家族が多い。……なんだ、飲み込みが早いじゃあねえか」

すこし瞠目する彼から白いスカートを受け取る。謙遜するべきか、感謝の言葉を言うべきか、この場合はどちらだろう。

「こういうときは素直に喜んどけ。ママは、謙遜するやつはあまり好きじゃねえ」
「はい……ありがとうございます」

そう言うと、ペロスペローは満足げに笑った。