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さようならと告げる。ずうっと一緒にいた私の半身。寄り添いあってきた、かたわれのおとこに。
別れがあっさり終わると思っていなかったが、しつこいとも思っていなかった。でも普通とも考えられなかった。それはたぶん私が別れを想像できなかっただけなのだ。それくらい長い付き合いの、私の空気のなかの一部だった。
モンドールはどういう顔をしていたのか思い出せない。そうか、という彼の嗄れた声を覚えているだけだ。私は逃げるようにその場を離れ、走り、気付けば真夜中の海岸線にいた。ざあ、ざあ、と波が打ち寄せては引いていく。
ーーモンドール。
彼から離れた遠い所に行きたい。
ーーモンドール。
でも、わたしは彼がいる世界でないと生きてゆけない。
わあと声がでた。我慢できず溢れた大粒の涙が転がり落ちていく。わたしのおとこ。わたしのかたわれ。わたしの空気。わたしは、あなたなしでは居られないのに。
何でも飲み込んでしまう海はわたしの叫びを飲み込んではくれない。まるきり知らないふりをするから、わあわあと、みっともない泣き声が響きわたるだけだった。



「おれはな、別にお前が嫌いとかそういう訳じゃねぇんだ」

ただな、と続く。お義母様は頬杖をつき、ふむ、と珍しく思案する素振りをみせた。
そもそも今日は始めから珍しい日だった。いつも一緒に呼ばれるモンドールは呼ばれず、わたしだけがお義母様に呼ばれた。モンドールが困惑の表情を浮かべるなかわたしは半ば連れ去られ、お義母様の前までくると人払いがされた。

「…わたしは、どうすればお役に立てますか?微力ではありますが、お義母様のお悩みを減らすお手伝いが出来るならわたしにさせて下さい」

わたしは嫌な予感がして、けれどこう言うことしかできなかった。お義母様が言葉にされていない部分、その重圧がゆっくりとわたしにのしかかっていた。

「よく言った。お前、おれとモンドールのためなら何でもできるか?」
「…はい」

お義母様がうれしそうに口端を釣り上げて笑った。さっきまでの雰囲気が嘘のように、今はとても気分が良さそうだった。嫌な予感が当たってしまったのだ、と思う。
ーーモンドールと別れな。モンドールに、お前よりずっと良い縁談がきた。
モンドールに決して言わないように言いつけられた。お義母様には、モンドールが、たとえお義母様の言いつけだとしてもわたしと別れることはないだろうという想像があったのだと思う。
わたしは帰り道、廊下を歩く自分の脚にうまく力が入らなかった。そこから先のことは曖昧で、大きな哀しみに包まれていたことを除けば、ぼんやりとおぼろげにしか思い出せない。




お題、モンドールで離婚。
過日実施したリクエスト企画でした。