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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -






閉じていた目をあけて、カタクリはぼんやりと外をながめた。水平線が朝もやでぼんやりとかすんでいる。はっきりとしない頭をなだめながら、カタクリは物思いにふける。
カタクリが今よりずっと若かったとき、常夏の島で、うだるような暑さに辟易して木陰で寝そべっていたときだった。なにをしてるの海賊さん、と、さえこはにこにことしながらカタクリをのぞき込んだ。妙に色の白い女。常夏の場所にあって夏の気配をいっさいまとわない彼女の姿は、カタクリに鮮烈な印象を残した。
なんとなく、涼しくなるかもしれないから。そんな馬鹿げた理由で、カタクリは島にいる間さえこをそばに置いた。近くにいることが嫌ではない家族以外の人間は彼にとって珍しくて、だから、好奇心もすこしあったのだとおもう。今になってみれば、単純にさえこのことが好きだっただけなのに。
ログポースが貯まるまで、カタクリはさえことあの夏の島の色々なところをめぐった。素顔を晒してあんなに開放的に、純粋さをもって楽しんだのは、きっとあれが最後だ。誰もが醜いと言った自分の口もとを、さえこは、大きなお口ね、と言ってほほえんだだけだった。
カタクリはクローゼットに向かい、ワイシャツを着る。寝起きの気だるさが、ようやくすこし抜けてきていた。ネクタイを手にとって、まあいいか、としまいなおすと、スラックスを履きベルトを通す。そして仕上げにジャケットを羽織り、マフラーを巻いた。マフラー以外は、なんの変哲もない。ふう、と息をついたところで、部屋のドアがノックされる。
お前たちはここで。船員にそう告げると、カタクリはひとりだけで船をおりた。万国の端にある無人島。万が一以外はなんの危険もないことを分かっているからか、彼らの反論はなかった。もとより何年も続けていることに、今さら異議を唱えるほど馬鹿ではないのだ。
浜辺からすうっと通った一本道をすすんで森を抜けると墓がたっている。

「……来たぞ」

お前にはふさわしくないと言って、カタクリはさえこをあの島から連れ出した。するとさえこは病気になってしまって、あっさりとカタクリのもとからいなくなった。さえこ、さえこ、と、カタクリは人の目も気にせずに泣いた。
自分の罪深さを思い知らされたような気がしてならなかった。さえこと幸せになりたかっただけなのに、と考えながら、カタクリは同じような誰かの願いを踏みにじり続けてきたことを思い出す。虐げてきたのだ。だから、あれは罰だったのかもしれない。

「さえこ、俺はどうしたらよかったんだろうか」

さわさわと木の葉が揺れた。鳥が低く鳴いてどこかへと飛んでいった。人の声は、しない。



お題、カタクリさんで初恋。
過日実施したリクエスト企画でした。