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「#幼馴染」のBL小説を読む
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ーーねえ、ねえ、モンドール。来てちょうだい、とても素敵なものがあるの。

たおやかな白い手が、年老いたモンドールの手を引いてゆく。一面の花畑が広がっていて、うららかな日差しが降り注いでいた。思わずモンドールは、その眩さに目を細める。多分、そのうつくしさにたじろいだのだと思う。
モンドールはうつくしさと醜さについてしばしば思いを馳せていた。数多くいるきょうだいたちをあますことなく順繰りに比べて、どういったところにあるのかを考える。うつくしいもの、醜いもの、どちらともいえないもの。比べるべきではないと知りながら、どうしても比べてしまう。そうして、自分が決して十人並みの域を出ないことを思い知らされる。
モンドールがため息をついているのにも構わず、さえこはぐいぐいとその手を引っ張った。
彼女はこういう女なのだ、とモンドールは思う。贔屓目なしに見てもさえこはうつくしかった。すこしの引け目と、奥歯がこそばゆいような甘い痺れを感じながら、モンドールは出かかったため息をかみ殺す。
さえこはうつくしいゆえに奔放だった。うつくしさという力も持った、ごうまんな女。けれどモンドールは彼女のことが好きであったし、彼女の前にしずかに平伏することは嫌ではなかった。
あまり引っ張っるな、とモンドールがつぶやく。
さえこはきょとんとしたあと、ごめんなさい、と笑った。そうして、あなたに見てほしかったんだもの、と言う。きらきらとした眼差しがいっしんにモンドールに注がれて、面映さゆえに彼は目を伏せた。

ーーあと、もうすこしだから。

さえこは目を伏せたモンドールに小さく耳うちした。モンドールは、自分の心臓がわずかに脈を早めてゆくのを感じた。
それから、さえこは花畑の中をなおも進んだ。美しい花々はさえこが言う、素敵なもの、ではなかったらしい。さえこの細い腕が無造作に茂みを掻き分ける。押しのけられた花たちは各々に声をあげ、それゆえに抗議の叫びは雑多な響きだった。しかしさえこは一切構うそぶりを見せない。
どこへゆくのだろう、とモンドールは考えた。彼女に手を引かれ、花を踏みしだきながら、行きつく果てを思い描く。紺色に塗りつぶされた空に星々が浮かぶ夜か、一片の陰りもなく太陽が輝く真昼か。どちらにせよ、モンドールはしずかな気持ちだった。さえこと行くならば、たとえそれが地獄だとしても、モンドールは幸せな気持ちになれるだろうから。
さえこのとなりに並ぼうと、モンドールは足を早める。モンドールは、さえこの言う、素敵なもの、を彼女と同じ瞬間に、一緒に眺めたかった。




in the xxxという企画に提出した物です。