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カタクリさま、と必死に呼ぶ声がした。まわりが浮ついているから、たぶんチョコレートを渡されるのだろうな、とカタクリは思う。すこしうんざりして振り返れば、見知った女が息を切らせていた。

「さえこか、なんだ」
「えっと、あの、受け取ってください!」

耳まで真っ赤にして、さえこがラッピングされた箱を差し出した。ピンク色の紙に白いリボン。万国のどこの店でもない包装だった。

「手づくりか?」
「はい。カタクリさまがお嫌でなければ……」

中身を尋ねれば、さえこはどもりながらドーナツだと答える。以前、ちょっとした会話のなかで言った好物を健気にも憶えていたらしい。いじらしいやつだ、と思う。カタクリは、さえこのこういう細やかなところが気に入っていた。ありがとう、と言い、それから三時のおやつに彼女を誘う。

「わ、わたしなどがご一緒してもよろしいのですか?」
「ああ、構わない」

美味しい紅茶と甘いおやつ、それからさえこがいることを考えると、カタクリはとても幸せな気持ちになった。