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くらい夜道を、カタクリとふたりで大きな洗濯かごを抱えて歩く。かけ布団のカバーとシーツ、それから洗いそこねていた厚手のバスタオル。彼はだいたい夜中に、ふとしたタイミングでわたしを起こす。洗濯にいくぞ、と、寝ぼけ眼のわたしに服を着せて、汚れものをかごにつめこむ。
小銭をもつのはわたしの役目だ。ポケットの中身をじゃらじゃらと鳴らしながら、サイズの合っていないサンダルを履く。底が黒くて硬いゴムでできていて、もう二年も履いているが、わたしの足にあわせて曲がるということをしらない。

「このバスタオル、やっと洗濯できるね」

街灯が瞬いた。夜の闇に融けながらのびるカタクリのかげが、目の前の彼といっしょになって頷く。
住んでいるマンションからいちばん近いコインランドリーまでは、歩いて十分かかる。脚の長いカタクリだけだと、たぶん半分くらい。それでも毎度、彼はわたしを連れて洗濯にでかける。量が多いから、とか、そういった理由とは関係なしに。
真夜中にでかけるのは好きだ。建物の隙間からのぞく星明かりをひとりじめできるし、とてもしずかで、考えごとをするのにむいているから。

「今日の晩ごはんの目玉焼き、おいしかったよ」
「そうか、よかったな」

ひるま、スーパーで十個入りの卵がセールになっていた。久しぶりめだま焼きが食べたいなあ、と思いながら帰ったら、カタクリが晩ごはんの準備をしてくれていて、それがめだま焼きだった。上から塩胡椒をかけてあって、黄身はかため、下にはベーコンが敷いてある。わたしが思い描いていたものが、そのまま食卓にならんでいた。
びっくりしながら、どうしてわかったの、とたずねると、カタクリは、勘だ、とこたえた。いっしょ住むようになって、ときおり、こういったことが起きる。まるで予知するみたいに、わたしの考えていたことを当てるのだ。
背の高い、まるい看板があらわれた。真っ赤な丸に、トマレ。これを右に曲がればコインランドリーだ。
コインランドリーの光はオレンジ色で、コンビニよりすこし不気味で、あたたかい。暗闇のなかにぽっかりと浮かんでいて、訪れるたび、無人島に漂着した旅人の気分になる。
カタクリが、いちばん大きな洗濯機に、かごの中のものを移しかえる。その間に、五百円玉と百円玉を探しだす。

「はい、お金」

おおきな手のひらに、金ぴかと銀ぴかの硬貨を握らせる。前きたときはわたしが入れたから、今日はカタクリの番。お金を入れるのは交代にしよう、と勝手に決めていた。
カタクリは親指で小銭をはじき、器用に片手だけで、わたしの勘定がちゃんと合っているかを確認している。
わたしはそれを見届けず、空っぽになったかごを抱えて、さきにベンチに座った。蛍光灯に照らされながら、洗濯機の数をかぞえる。おおきいのが四つ、中くらいが八つ、小さいのが二つ。ここの責任者さんは、どうやら偶数が好きみたいだ。
そのうちのひとつが動きだすと、カタクリがのそのそと近づいてきて、となりに座った。それから、ぐるぐる回るようすをいっしょにみつめる。

「まわってるね」
「ああ、回ってるな」

速度に緩急をつけながら、カバーやシーツ、バスタオルが、洗濯機のなかでまわりつづける。止まったかと思うと、ばしゃっと水がかけられて、またまわる。
ものが洗われて綺麗になってゆくのは、みていて気持ちがいい。汚れが落ちるように、自分のいやな経験もきえてゆく。カタクリもそういうふうに感じているのか、真剣な表情で洗濯機を見ている。凛々しい面持ちと、コインランドリーの洗濯機。そのときふと、カタクリが腰ではいているジャージの横の、白い二本線がぐにゃりと曲がってできた模様のことを思い出した。芸術ととんちきのはざまにあるような、ちぐはぐなものは、すべてなぞの説得力を持っている気がする。

「さえこ、眠いのか」
「……うん、ねむい」

カタクリが自分の膝をかるく叩いたので、わたしは素直に頭をのせた。筋肉質だからかたくて、実をいうと、あまり心地よくはない。それでもわたしは、これを気に入っていた。
まどろみがゆっくりと押し寄せてくる。洗濯がおわるまでは、あとどのくらいだろう。