夏油?
2021/05/22 05:49
規則正しい寝息が聞こえる。胸が上下する。たしかに生きているーーようにみえる。
醜く額にある、へたくそな縫い傷を指でなぞった。ぐっと押せば簡単に開きそうだった。
傑は死んだ。
今の傑は、彼であって彼でない。
「私の額に、そんなに面白いものがあるのかい」
うっすらと目があいた。からかうというよりも、純粋にねむたそうなまなざし。
「ばけもののくせに、眠たいのね」
「……失礼な子どもだ」
頭に手がまわり、ぐっと傑の胸に押しつけられる。
「あいにくと睡眠は欠かせないんだ。もうすこしで起きるから、それまで君も眠るといい」
本当に眠たいようだった。すぐさま穏やかな、呼吸の音がしはじめる。
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