虎杖と宿儺
2020/08/25 05:17
やわらかな寝息とあどけなさの残る横顔。同じベッドで眠り、そして目覚める度に、彼が何をしたのだろうかと思う。ふつうの、本当にごくふつうの少年だ。悠仁は、宿儺のもたらした因果にもとより絡め取られていた私とは違う。
「可哀想だと思っているだろう」
伸びた犬歯がのぞく。悠仁の頬にぐっぱりと開いた口がにたにたとわらっていた。
「宿儺」
「お前と近いからなあ。お前とこいつ、何が違うかと言われれば分からないくらいに」
宿儺の言うことは正しかった。
悠仁は宿儺の指を飲み込んだが、私は宿儺の指を飲み込まなかった。けれど私にまとわりつく宿儺の気配にはそんなことは関係なかった。千年にわたり続く呪いは、その事実だけで重く苦しい。
「本当は嬉しいんだろう?偽善者の面はそろそろやめておいた方がいいぞ」
ずっと独りだった。私に近いものは宿儺しかなく、それ以外のものはすべてーー呪霊でさえもーー離れたところにいた。対等でも下等でも、ましてや上等でさえもない。ただ、ずうっと遠いだけだ。
「ははは、わらっているな」
宿儺はそう言って、珍しく自分から静かになった。悠仁の寝息だけが聞こえる。私は、自分がどんな顔をしているのか分からない。
前へ | 次へ