※この話は吸血鬼パロです。
※時間軸ははっきり言って滅茶苦茶です。神ノ道化はあるけど師匠いないしリンクもいません。本部も移動前のもとの場所です。






「ごちそうさまでした」

朝日差し込む広大な食堂内。丁寧に両手を合わせてそう言った少年の前には、大量の皿の山。一人で…いや、数人がかりでも食べきれないような皿の山は、その場にいる者達にとっては見慣れたもので、これが当たり前だというように普通に通り過ぎて行く。
その皿の山を作った張本人――白髪、左頬に赤い傷の入った少年、アレン・ウォーカーは満足そうな笑みを浮かべると、順に皿を返却口へ戻していく。寄生型のエクソシストである彼は、エネルギーの消費量が常人の倍以上あるため、摂取量もそれに見合ったものになってしまう。細身の身体のどこにそれだけの量の食べ物が入るのか、一度訊いてみたいものだ。
全部の皿を片付け終わると、食堂を出て自室へ向かう。途中で会った科学班班長リーバー・ウェンハムは、目の下に濃い隈ができ、いかにも徹夜ですといった感じで疲れ切った様子だった。いつも通り、仕事に追われているのだろう。もしくは、室長コムイ・リーが脱走してそれを必死に探したか…。おそらく後者である、とアレンは判断した。
自室に戻ったはいいが、何もすることがなくて正直暇だった。何もないという日が珍しく、いざやってくると何をしていいのか分からない。コムイから任務は言い渡されてないので仕事は無し。よく話すリナリーやラビは任務でいない。話し相手がいないというのは、これほどまでに暇なものかと思った。まさか忙しい科学班の人達に個人の暇潰しということで迷惑をかける訳にもいかず、どうしようかと悩んでいたところで、一つのことに思い当たった。

「…そうだっ」

アレンは寝転んでいたベッドから起き上がると、自室を出て階段へと向かった。
教団に来てから結構経つが、教団内で知らない所が殆どだということに気が付いたのだ。基本的に移動は自室と食堂、室長の部屋くらいで、無駄に広い教団内は全て見切れていないのだ。普段は迷子を恐れて下手に行ったりしないのだが、今日は時間に余裕があるため、迷っても大丈夫だろうという安易的な思考が働き、行動に移してみることにした。
…が。

「…迷った」

案の定早速迷子になったアレンは、途方に暮れて立ち尽くす。いつも一緒にいる筈のティムキャンピーともはぐれてしまったようで、余計に心細く感じられた。

「ま、これも想定してたことですし…取り敢えず、行ってみましょう」

迷子なんて慣れたものだから、と前向きに考えたアレンは、迷うことなく扉の並んだ不気味な見慣れない廊下を突き進む。天井の僅かな明かりが余計に不気味さを感じさせられる。
暫く進んでいると、『立ち入り禁止』と書かれたプレートが提げられた扉を発見した。使われているのかどうかすら怪しい扉ばかりだったが、この扉はそれ以上にボロボロで傷も多く、外見的にはとても近寄りがたいものだった。プレート自体も既に錆びており、大分前に掛けられたことが分かる。
立ち入り禁止と書かれているのだから、入ってはいけないことは分かる。が、禁止されるほど破りたくなるというのが人間の心理というもので、アレンも例外ではなく、好奇心に負けてドアノブに手を掛けた。

「…うわ」

中は真っ暗。見つけたスイッチで明かりを点ければ、部屋の全貌が顕になった。
全体的に埃が高く被っていて、積み重ねられたたくさんの段ボールは、湿気でふやけていたり、所々破れて中身が溢れていたりと散々な状況だった。並べられた鉄製の棚も錆びており、相当古い物だと分かる。棚の上には、たくさんのビーカーや試験管といった実験器具が置いてあることから、元は科学班が利用していた資料室か何かだと推測出来た。
見慣れない小道具もあり、興味深げに眺めながら歩いていると、足下の小さな段差に気付かずに躓いて転んでしまった。咄嗟に受け身をとったはいいものの、バランスを崩してしまい、隣の棚に身体を打ち付けてしまった。

「…ったぁ……って、え?うそっ」

ギョッと目を剥いた先には、幾つかの試験管。棚にぶつかった拍子に、バランスを崩して倒れた試験管が転がって落ちてきたのだ。しかも、その内の一本がガラスに罅が入っていたらしく、脆かったことも相まって、頭にぶつかった拍子に割れてしまい、中身を全て被ってしまった。他の試験管は床に落ちて割れ、辺りにはガラスの破片が飛び散った。

「最悪だ…何これ、血?」

相変わらずの自分の不幸さに嘆きながらも、被ってしまった物が何かを確かめる。頬を拭って見たそれは真っ赤で、一見血を連想させる。自分の血かとも思ったが、切れた時の鋭い痛みは感じなかったため、試験管の中身だと断定した。
額から垂れてきた液体が唇に触れ、慌てて拭ったものの、僅かに口内に侵入したそれは、血液独特の鉄の味がした。

「やっぱりこれ、血なのか?なんでこんな物がここに…」

呟いてみたところで疑問が解消されるわけもなく、仕方なく立ち上がって部屋をあとにした。割ってしまった試験管達は、後日また改めて来て片付ければいい。使用されていないのであれば、それでも構わない筈だ。今はとにかく、血らしき物が付いた髪と服を洗いたい。ベタベタして気持ちが悪い。

「何かも分からない物を口に入れちゃったけど…大丈夫かな」

もし危ない薬品だったら…と顔を青ざめさせるが、今のところ特に目立った症状は出ていない。取り敢えずは安心していいだろうと息を吐き、前を向いて歩きだす。
運がいいことに、誰にも会うことなく小一時間程で自室に着いたアレンは、早速タオルを手に取って顔を拭う。やはり、真っ赤だった。誰にも会わずに済んだのは良かったのかもしれない。もし見られたら、騒がれていただろうから。

「あ、ティムキャンピー」

開いていた窓から入って来たティムキャンピーは、アレンの容姿に驚いたようで、アレンの元へ飛んで行くと、周りをぐるぐる旋回し始めた。

「心配してくれてるのか?大丈夫、これは僕の血じゃないよ。ただの薬品だ」

アレンがそう言うと、ティムキャンピーは安心したように飛ぶのを止め、ベッドの上へ、ちょこんと座るように降り立った。

「でもこれ、本当に何なんだろうな。どう見ても血だけど…」

壁に掛けた鏡に自分の姿を映す。白髪は一部だけ真っ赤に染まり、それが自身の師匠を連想させて、気分が悪くなった。僅かに顔を顰めると、鏡から視線を逸らして窓の外を眺める。
だからアレンは気付かなかった。鏡に映った銀灰色の瞳が、微かに赤みを帯びたことに。


2011.08.25
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