「なんで俺が鬼道さんと違うチームなんですかっ!!」
佐久間の叫びは狭い部屋によく響いた。
勝負だっ!!
「なんだなんだぁ?」
「うるさいぞ佐久間」
綱海と豪炎寺の言葉を無視して、佐久間は続ける。
「日本代表候補に選ばれたのは嬉しいです。けど鬼道さんと違うチームってどういうことなんですかっ!!」
鬼気迫る様子で鬼道に詰め寄る佐久間。
それに若干眉をひそめながら鬼道が答える。
「監督が決めたことだ。文句を言うな」
「それでも納得出来ません!相思相愛な俺達を引き裂く監督が憎い!!」
「相思相愛じゃないから。そして監督を憎むな」
「…!鬼道さんは俺より監督を選ぶんですか!?」
「なぜそうなる!?」
佐久間はカッと目を見開いて鬼道の肩をガシッと掴んだ。
「こんなにも鬼道さんを愛しているのに!それなのに鬼道さんは監督を選ぶんですか!?」
「や、やめろ佐久間…っ!肩を揺するな…!」
鬼道の頭が前後に揺れ、苦痛の声を漏らす。が、周りの人達はその光景を笑いを堪えながら見ていた。
すると、そこへヒロトがやって来た。
「残念だったね」
クスッと笑いながら言うヒロトは、今の佐久間の神経を逆撫でするには充分だった。
「…キサマ、喧嘩売ってるのか?」
「まさか、そんなわけないじゃないか」
ドスのきいた声で言うも、あっさり返されてしまう。おどけたように言ったことがさらに佐久間の苛立ちを募らせた。
この時点で鬼道は魂が飛んでいた。
「それにしても、円堂君と同じチームになれるなんて最高だよ!前は敵同士だったけど今は仲間!夢が叶ってホント幸せ!!」
ブチッ。
「うるせぇ!」
佐久間はついにキレて怒鳴り付ける。それと同時に無意識に鬼道を手放してしまったために、落下していくのにも気付かない。
「お前さっきからうるせぇんだよ!円堂と一緒になれて嬉しいのはわかる。でも俺は!鬼道さんと一緒になれなかった!この辛さがお前に分かるか!?」
一気にまくしたてる佐久間を諫めるように、まあまあと手を動かす。
「そんなに怒らないでよ。確かに俺だって円堂君と違うチームになったら嫌だから、その気持ちはわかるよ」
でも、とヒロトは続ける。
「俺はそこまで取り乱したりはしないかな」
「…」
佐久間は数秒間肩を震わせたあと、ビシッとヒロトを指差す。
「基山ヒロト!」
「!」
「勝負だっ!」
〜風丸視点〜
…なぜ、こんなことになってるんだ?
今俺達の目の前では壮絶なサッカーバトルが繰り広げられている。
佐久間と、ヒロトの。
「見ててね円堂君!絶対勝つから!」
「お、おう?」
「見ててください鬼道さん!負けるようなことはしませんから!帝国の名にかけて!!」
「…」
こんな会話がされたのは数分前。あの時の明るい面影は一切無く、とても真剣な表情をしている。
「なんでこんなことになったんだっけ?」
俺の疑問は近くにいた緑川が答えてくれた。
「どちらが強いかの勝負じゃなかった?」
「あの流れでどうしてそうなるんだ?」
「…さぁ?」
二人で首をひねって考えている間にも、激戦は続いていた。
「フォトンフラッシュ!」
「しまった!…キラースライド!」
「ぅわっ…危なかった」
「チッ」
…今のところヒロトの方が優勢みたいだ。
ゴール前にいる立向居はいつ来るのかと緊張してるようだ。
「いつ終わるんだ?」
「体力も技術もあるから、結構かかるんじゃないか?」
「…そっか」
俺はこの戦いが永遠に続くんじゃないかと本気で思った。
隣では円堂が「スゲーッ!」と言いながら目を輝かせている。
俺は深いため息をついた。
結局二人は体力の底が尽きるまで勝負をしたが、決着がつかないままに終わった。そのまま気絶してしまった二人は、鬼道と緑川によって宿舎へと運ばれた。
「まったく、迷惑をかける奴らだ」
佐久間をベッドへと運んだ鬼道は、ため息混じりにそう言った。ヒロトを運んだ緑川も、苦笑しながら応える。
「自分で言っておきながらこの有様…ホントバカだよね」
「…ま、それがこの二人なんだろうけどな」
二人は顔を見合わせて笑った。
(なんで俺が鬼道さんと…)
(それ、三回目だぞ佐久間)
(二度あることは三度ある。またやるのかな)
(勘弁してくれ……)
2010.07.06