彼と友人
気持ち悪い。
一言で言うなら、そんな感じや。朝練の時から放課後の部活の時まで、いつも以上に上機嫌で鼻歌まで歌いだしそうな跡部は、はっきり言って気持ち悪い以外の何物でもない。周囲の人達も若干引いとったくらいや。
何がそんなに跡部の機嫌を良くしているか、大体の検討はついとる。昨日会った少年、白木拓人や。
久しぶりに会うと言うてた白木は、どう見ても運動してなさそうな細い体つきで色も白かった。見た感じ背も低いし年下かと思うたけど、本当のことは分からん。とてもやないけど、跡部の友達言うにはイマイチピンとこんかった。
でも、昨日の跡部のあの態度。相当大事な奴やっちゅーことは分かった。微かに目元が濡れてるように見えたけど、気のせいやないと思う。あれは絶対泣いとった。嬉し泣きっちゅーやつか?正直ビックリした。
放課後の部活での様子は、朝から変わらずやった。後輩がミスっても、いつもみたいに咎めたりせえへん。部活内の雰囲気が悪くなるんは嫌やからええねんけど、なんか調子狂う。複雑やなぁ。
そんな当の本人は、監督に呼び出されて今は不在。大方他校との試合についてやろな。

「なぁ侑士、あれって白木じゃねーか?」

袖を引っ張りながら、岳人がテニスコートの入り口を見て言った。視線を向け、周りを見回しながら不安そうな顔してる白木が視界に入った。跡部探しとるんやろか。

「声かけた方がええみたいやな」

コートの入り口に向かうと、岳人が俺も言うて着いてきた。近づいてくると俺達に気付いて、白木の表情が若干明るなった気がする。片手を軽く挙げて、簡単な挨拶をした。

「昨日ぶりやな。どないしたん?」

「景吾に部活見学来いって言われまして…いますか?」

「跡部なら監督に呼ばれてておらんけど…このままってわけにはいかんし、案内したる」

「え…でもせっかくの練習時間を」

「構わねーよ。これくらい大丈夫だから、行こうぜ」

戸惑ってる白木の手を強引に引いて、岳人が歩きだした。俺もその後に続く。本来なら部外者立ち入り禁止やけど、部長自らの招待なら問題ないはずや。
跡部が来るまでの間言うてベンチ座った岳人は、隣を叩いて座るよう促した。おとなしく座った白木は、落ち着かないようにしきりに周りに視線を向けとる。
無理もない。昨日跡部と一緒におって注目の的になったんや。皆が気にならないはずはないから、いくつも視線を感じるんやろな。
さりげなく皆の視界から白木が隠れるように立ち、白木の方を向いた。

「ここまではどうやって来たんや?」

「車です。送っていただきました」

「帰りもか?」

「はい」

昨日の自己紹介で跡部の家で世話になるんは聞いとったから、使用人が送って来たと推測した。

「跡部とはどこで会うたん?」

ちょっとした好奇心から、ついて出た言葉がこれやった。岳人も興味津々といった感じで若干身を乗り出した。

「…ヨーロッパの病院で。中庭歩いてたら、診察に来てた景吾と会ったんです。日本の基準で考えれば、僕は今中学一年生です。年が近いことと両親以外の初めての日本人だったので、凄く嬉しくて…話しかけてみたんですけど」

一旦言葉を区切って、白木はため息をついた。苦笑を浮かべている。

「凄く偉そうな態度に、何だこいつと思いました」

それには苦笑しか浮かばんかった。確かにあれは、初対面で苛つかない奴はそうそうおらん。仕方ないと思える。

「だったら、それからどうやって仲良くなったんだよ?」

「…どうやって、ですか。どうでしたっけ…」

少し思い出す素振り見せた後、ああ、と声を上げてニッコリ微笑んだ。

「後日また中庭で会った時に、僕が平手一発、一喝入れたのがきっかけでした」

「…一喝?」

「……平手?」

「跡部に?」

「はい。勿論反感を買ってしまいましたが」

まさかの言葉で一瞬惚けたものの、なんとか気を持ち直す。あの跡部に平手かますとは、この子も案外度胸あるわ。
だったら、どうやって仲良くなったのか。続きが気になったらしい岳人が先を促した。

「大雑把に言えば、その後何回か話して打ち解けました」

「大雑把過ぎる!その内容が知りたいのに!」

「それは」

「おい、てめーら。練習さぼっておしゃべりとはいい度胸じゃねーか」

「跡部っ」

背後から急に現れた跡部に、柄にもなく目を見開いて驚いてしもうた。気配消すん上手くなったとちゃう?岳人なんか声まで上げて逃げたそうな表情しとるし。白木だけが暢気に景吾ーとか言って笑うとる。仲が良いからなのか、単に度胸あるからなのか。意地悪そうな表情浮かべとる跡部にそんな態度とれるんは、白木だけしかおらんと思った。

「景吾お帰りー。二人には話し相手になってもらってたんだ」

「それは良かったな。だが、さぼってた口実にはならねぇことぐらい解ってるよな?アーン?」

「…はいはい、それくらい解っとる」

「二人ともグラウンド十周だ!」

容赦なく言い渡す跡部に内心舌を打ちながら、仕方なく岳人とその場を離れる。十周なら軽い方かと思うが、そんなことはない。走らせる、それだけで十分鬼畜やと思うのは俺だけやないと思うで。ああくそ、頑張れなんて言って手を振る白木が恨めしいわ。

「クソクソ跡部!話すくらいいいじゃん!」

当然不満の声を上げる岳人は、おもいっきり不本意ですと言わんばかりの表情をしてた。

「気持ちは分かるけど抑えとき。下手に聞かれたら増やされるで」

それ聞いて黙った岳人から視線を外し、跡部と白木がおる方へ振り返る。少し話しただけで跡部は離れたようやけど、その表情は見たことないくらい穏やかでビックリしてもうた。別人やないかとさえ思うたわ。そこまで跡部が大事に思うとる白木は、楽しそうにテニスしてる部員達を眺めとったけど、よう注意しないと気付かんくらい微かに翳りを帯びた目をしてた。
樺地がジローを担いでくるのを視界に入れながら、暫くその理由を考えた。


2012.2.19


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