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朝目が覚めたら、そこは知らないところだった。
見慣れない天井、人工的な明かりしかない閉鎖的な空間。朧気な脳内を必死で回転させていると、視界が急に暗くなった。

「…?」

「おはよう、神無」

「!?」

急に目の前に現れた顔にビックリして跳ね起きると、けらけらという笑い声が部屋に響いた。ピンク髪の少年が、隣に座って笑っている。ぼんやりしていた脳が一気に覚醒し、すぐに昨日の出来事を思い出させた。
そうだ、俺は昨日死んで銀魂の世界にトリップ…今隣で笑っている神威の双子の兄になったんだった。

「ビックリし過ぎだよ」

「…そんなことは…」

漸く笑いが収まり、いつもの笑みを浮かべると神威はベッドから降りた。その姿は既に外出着に着替えられており、髪は三つ編みに結わえられ、ドアには番傘が立て掛けられていた。
おお、あれが神威の使う番傘か、と生で見られた感動で目を輝かせる。

「俺は仕事で今日はいないけど、部屋から出ないようにね」

顔や腕にぐるぐる包帯を巻きながら、ドアに向かって歩きだす。やはりというか、その手つきは慣れたものだった。
…まさか、俺が目覚めるまで待ってた…とか?…まさかね。

「阿伏兎を置いてくから、何かあったら頼るといいよ」

「…阿伏兎を置いてったら、側近が…」

「大丈夫。一応云業連れてくから」

神威なら一人でも大丈夫そうだけど…云業、一応扱い…。確か原作でも結構早い段階で神威に殺されたような…同じ夜兎なのに…。
ご愁傷様です…。

「いってらっしゃい、神威。仕事頑張れよ」

神威は少し目を見開いた後、すぐにいつもの笑顔に戻って番傘を持った。

「行ってきます、兄さん」

そのまま行ってしまった神威を数秒見送ってから、よいしょとベッドから降りる。
立つだけでふらつく身体を踏ん張ることで支え、部屋の隅にある箪笥へ足を一歩一歩踏み出す。事前に神威から服は自由に使っていいと言われている為、遠慮なく使わせてもらおうと思う。ついでに髪縛る紐かゴムがあれば、それも使いたい。鬱陶しくて仕方ないのだ。

「えーと…」

先ずは何が入っているか、全ての段をチェック。一段目を開けて、やはりというか何というか、やっぱりって感じがした。

「チャイナばっか…」

服自体はそんなに多くないが、見る物全てがチャイナ服だった。チャイナが好きなのか、そういう文化なのか…正直よく分からなくなった。しかも見たところ、殆ど真新しい感じがした。使い古されている物が珍しいくらいだ。あの戦闘狂、戦う度に服新調してるのか?なんて贅沢な…。
とりあえず適当に服を引っ張りだして、それに着替える。慣れない服で手間取ったが、なんとか着ることは出来た。着方が間違ってなければいいが。
それから箪笥の隣にある棚の引き出しを漁れば、たくさんのゴムと紐が出てきた。大きさから色、材質まで全てがそれぞれ違うらしい。神威って意外とオシャレさん?
その中の一つ、青い紐を掴んで後ろで一つに結わえる。この色が、このピンク髪に一番映える気がしたからな。
身なりの準備は一応終わった。部屋を一通り見回して、あることに気が付いた。

「壁が、出来てる…」

壁一面のガラスが無機質な壁で覆われ、天井の明かりのみが部屋の光源だ。わざわざ閉めるということは、今どこかの星に着陸してるのか?
立ち疲れて床に座り込んでいると、ドアを叩く音が部屋に響いた。阿伏兎だろうか。

「入るぞー」

「どうぞー」

俺の返事を聞いてからドアが開かれ、現れたのは案の定阿伏兎だった。手にはお盆と湯気が立ち上る丼が乗せられていた。

「食べられるか?」

「うん。いただきます」

その場でお盆を貰い、伸ばした膝の上に乗せる。丼の中身は、ご飯にふりかけという至ってシンプルなものだった。夜兎って意外と粗食なんだよな。

「ん、んまい」

シンプルイズベスト。ふりかけを嘗めてはいけない。
滅茶苦茶美味いんだけど!

「それだけで足りるか?」

「大丈夫」

丼一杯分すぐに平らげると、ごちそうさまと言ってお盆を返す。本当にいいのか?と再度尋ねてくる彼に大丈夫だからと返して立ち上がると、ふらつきながらもドアへと向かう。それに気付いた阿伏兎が慌てて俺の肩を掴んだ。

「ちょ、待て!部屋出るなって団長に言われてんだろ?」

「阿伏兎が一緒なら大丈夫だよ、きっと」

「だからってなぁ…」

「黙ってればいいんだって。ばれても俺が望んだって言えば気にしないはずだし」

どこからそんな自信が出てくるのか正直俺でも分からないが、そこは…まぁ兄としての直感だ。折角だから春雨戦艦内を見てみたいという好奇心には勝てないし、見なきゃ損だろ?

「…分かった。じゃあちょっと待ってろ。皿片付けてくっから」

「りょーかい。早く戻って来てね」

「へいへい」

阿伏兎が部屋から去って行った後再び訪れた静寂に、そういえばこの戦艦にはどれくらいの乗員がいるのだろうと暢気に場違いなことを考える。
第七師団が一番危険な集団だということは知っている。また、俺の体力と筋力が人並み以下で歩くことすら危うい状態だということも知ってる。だから、神威が心配して(神威に心配するという気持ちがあるのかどうか、正直疑っているけど)俺を部屋から出さないようにする気持ちも分かる…が、阿伏兎が一緒なら大丈夫だと思う。仮にも夜兎で副団長だ。たとえトラブルが起きようと、何とかしてくれる。だから、心配はしていなかった。する必要もないと思っていた。
――だからこそ、俺は油断していた。春雨という海賊自体、嘗めていたんだ。

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