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毎日同じことの繰り返し。
皆は飽きないのだろうか。
朝起きたらご飯食べて学校行って、つまらない授業受けて、部活に励むクラスメートの横を通り過ぎて帰宅する。
繰り返し、繰り返し。毎日が平凡で、つまらない。こんな風に自分の生活を捉える奴もそういないのではないか。
俺の考えは異常だろうか、滑稽だろうか。分からない。
つまり、俺が言いたいのは、刺激を与えてくれるモノが欲しいということだ。どんな些細なことでもいい。ありきたりで平凡な日常から脱することの出来るモノを。
あり得ない、無理に決まってる。鼻で笑い、そう勝手に自己完結した俺に、神様は願いを叶えてくれた。
――嬉しくもなんともない、死という結末だったけど。






ほんの一瞬だった。
密閉型イヤホンを付け、大音量で音楽を聴いていた為に周りの音が完全に塞がれていた。
学校からの帰り道。駅までの道のりをいつも通り歩いていた。イヤホンを付け、尚且つ携帯電話を弄っていたが為に周りの状況が分からない状態だった俺は、突然の出来事に驚くことしか出来なかった。
腹部に感じる、熱い熱。手を当ててみれば、生温いどろどろした感触。
血。
何故、という疑問は周りを見渡して気付いた。道端で血を流して倒れている複数の人々。そして、目の前で刺されている見知らぬ女性。刺しているのは、全身黒ずくめでマスクをした男。引き抜かれた物はナイフ。女性が倒れた瞬間、俺は理解した。
無差別殺人。
そんな言葉が脳裏を掠める。
ああ、俺はその被害者か。ここで死ぬのか。不思議と何も感じない。手から携帯電話が滑り落ちる。イヤホンから流れる音楽が遠く聞こえる。
いつの間にか、俺の意識は遠退いていた。






「ん…」

身体が重い。ダルい。
重い瞼をゆっくり開ける。視界に入ったのは、真っ白な天井。首を動かして周りを見回しても、どこも白一色。何も無い。
重い身体をゆっくり持ち上げ、上半身を起こす。それにより一望出来た自分の身体は、上半身裸で全身に無数の管が繋がり、寝ていたベッドの下に繋がっている。
そこで思い出したのは、先程の自分に起きた出来事。確かあの時、自分は腹を刺された筈だ。あの時触った血は間違いなく本物。その後意識を失って…助かったのか?死んでない?ということは、ここは病院?
安堵したのも束の間、腹部に刺された筈の傷痕が無いことに気付いた。痛みも感じない。どういうことだ?確かにあの時自分は…。

「…!?」

漸く気が付いた。その身体が、自分のモノではないことに。
異常なまでに白い肌に、筋肉などついてないような細い四肢。腰まで届く程の長い髪は…ピンク色。
自分の身体はこんなに白くない。こんなに細くない。髪の色だって…こんな、サーモンピンクのような自然ではあり得ない色をしていなかった。俺は純日本人、多少茶色がかっていたが、それでも普通の黒い髪だった。
どうなっている?疑問ばかりが頭を占め、気が付いた時には身体に繋がるたくさんの管を引き抜いていた。
ベッドから降り、床に足を着けた瞬間に身体が傾ぐ。上手く力が入らない。何とか倒れず踏ん張ると、今度はふらつきながらも立つことが出来た。
考えているだけでは何も分からない。状況判断するには、動くしかない。この部屋唯一の出入口らしきドアへ足を進めると、そっとドアノブを捻って僅かに開ける。
隙間から覗くと、ドアの向こうは薄暗く、はっきりと物を判別出来なかった。ドアを引き、廊下らしきところへ踏み出す。
…誰もいない。左右に広がる通路は、途中で枝分かれしているみたいだ。なかなかに複雑そうな造りになっているらしい。
とりあえず、ここが病院でないことは明らかだ。どちらに進もうか悩み、どちらでも同じかと結論付け適当に右に進む。途中で枝分かれした道があったけど、下手に迷っても困るから真っ直ぐ歩き続ける。
驚くほど人気のない通路は、厭に静かで。不安を煽られ、軽く拳を握る。歩いているだけなのに、段々息が上がってくる。思うようにならない身体に、小さく舌打ちした。






その頃、先程までいた真っ白な部屋に一人の訪問者が現れた。
ピンクの長い髪を後ろで三つ編みにし、貼りつけたような笑みを浮かべる少年は、ベッドに誰もいないことに気が付くと笑みを消し去った。スッと細められた目は一点だけを見つめる。ゆっくりベッドに近づき、僅かに温もりの残ったそれに触れる。

「…まだ遠くまでは行ってない筈だ」

くるりと踵を返し、来た道を引き返す。
自分が通って来た道では誰も擦れ違わなかった。何年も寝たきり状態だったから、そう遠くまで行ける体力はない筈だ。
通路へ出たら迷わず右を選び、心なしか速い足取りで突き進む。自分と同じ、ピンクの頭を探しながら。

「…神無」

小さく呟かれた名前は、薄暗い廊下にこだまして消えた。






一方、俺はというと、途中で見つけたトイレらしきところに立ち寄っていた。
トイレならば鏡があるはず。一度今の自分の姿がどういったものなのか確認しておきたかったのだ。
相変わらず人気のない場所で、不気味ささえ感じられる。案の定幾つかある洗面台の上にほどよい大きさの鏡が設置されていた。
一番手前の鏡に自分の姿を映す。そして、首を捻った。ピンクの髪に青い瞳。

「…あれ?」

この姿、どこかで…。
そう続けようとした言葉は、突然響いた激しい音に遮られた。驚いて振り向いた先には、トイレの出入口のドア…があった場所に立つ、一人の少年が。
少年の足元には、先程までしっかり立っていたはずのドアが埃を立てながら転がっていた。つまり、少年がドアを蹴破ったということで。

(ぎょええええ!?)

なんて力だ!という突っ込みは、少年の顔がはっきり見えたことで驚きに変わった。
少年は貼りつけたような笑みを浮かべると、ドアを踏みつけてゆっくり近づいてきた。

「やっと目が覚めたと思ったら、すぐ消えちゃって…」

目の前まで来ると歩みを止め、同じ目線――同じ顔の少年は俺の頬に手を添えた。

「…目が覚めて良かった。神無兄さん」

この言葉で確信した。
どういう原理かは知らないが、一度死んだ筈の俺はどうやらマンガ…銀魂の世界に来てしまったらしい。しかも、人気はあるが明らかに危険で厄介な人物――神威の兄として。

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