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次に目を覚ましたのは、その日の夜だった。

「…おお、凄い。流石夜兎」

たった数時間寝ただけなのに、既に熱が大分下がっている。普通に動ける分には回復した。
夜兎は傷の治りだけでなく、病気の回復も早いのか?だったらなんて便利な身体なんだ。

「さて、意外と早く治ったけど…どうしようか」

縛りっぱなしだった髪を解いて、手櫛で整える。寝ている間に汗ばんだ身体が気持ち悪いから、風呂を借りれないだろうか。休ませてもらった挙げ句、それは図々しいか?
うーん、と唸っていると、桂がやってきた。手には食べやすいように調理されたお粥があった。

「起きたか。熱はどうだ?」

「下がりました。もう大丈夫です」

「…あれ程の高熱だったというのに…?」

「夜兎は治りが早いんです」

「…そのわりには、二日間ずっと寝ていたようだが?」

「………え?マジ?」

「マジだ」

そんなに経ってたの?という色を浮かべ、俺は驚いた表情をした。伸びをしていた動きを止め、隣に座った桂を凝視する。
こんなことで嘘をつく理由はないから、本当のことだろう。そう考えると、夜兎の回復力というのも怪しくなってきた。神威が以前身体が弱いと言っていたはずだが、それは俺の身体が夜兎の中で特別回復力が低いということだったのか?ずっと寝ていて抵抗力が低くなっているから、と思っていたけど…。

「あ、あの、風呂って借りてもいいですか?ベタベタして気持ち悪いので…」

「構わんぞ。廊下を右に曲がって、突き当たりを左に行けば着く。この時間なら誰も使ってないはずだ」

「ありがとうございます」

冷める前に食べろ、と渡されたお粥を素直に受け取ると、早速蓮華を持って食べ始める。醤油で味付けされたお粥は意外と美味しく、すぐに平らげてしまった。
空になった器を畳に置くと、どこかに行っていた桂が戻ってきて何かを渡された。
着物だ。

「着替えが無くては困るだろう。俺のだから多少大きいかもしれんが、そこは我慢してくれ」

「いえ、ありがとうございます」

「あと、籠があるはずだから、そこに洗う物を入れておけばこちらで洗濯をしておくからな」

「…なんか、本当いろいろとすみません…」

「気にするな。俺がしたくてやってることだからな」

なんかもう本当にいろいろと申し訳ない。ここまで世話してくれるなんて、ちょっと桂を見直したよ(別に今まで桂を見下してた訳じゃないんだけど)。

「じゃ、早速行ってきます」

「ゆっくり浸かるといい」

一礼して部屋を出ると、桂に言われた通りに廊下を進む。人工的な明かりはないものの、月明かりが強く、歩く分には支障はなかった。
廊下を歩いている間にも幾つかの部屋の前を通ったのだが、明かりが点いてる部屋は一つだけだった。攘夷志士の仲間と住んでいるとばかり思ってたから、一つしか明かりがなかったことに疑問を抱いた。もしかして、この屋敷はかなり広いのではないだろうか。それならここに人の気配をあまり感じないのも頷ける。

「でも、桂にそんな経済力なんてあったか?」

うーん、と唸っている間に目的地に到着した。
ガラッと引き戸を開けると、幾つかの棚に幾つかの籠があるそれなりに広い脱衣所が現れた。明かりが点いていたけど、誰か入ってるのか?今いる出入口から対角線上にある浴室の出入口に向かい、そっと中を覗く。湯気が邪魔で見えにくいが、人の気配はない。誰もいないようだが、だったら何故電気が?まさか桂が気を利かせて点けておいた…とか?…まあ、そんなことはどうでもいいや。とにかく今は早く風呂に入りたい。
適当に籠に脱いだ服を入れていくと、タオル一枚を片手に浴室の引き戸を開いた。さっき覗いた時も思ったが、まるでどこかの大浴場のように無駄に広い。湯船も、空間も。シャワーだって一つや二つだけではない。
軽く驚きながらも、ちょっとした温泉気分で一つのシャワーの前まで歩く。しゃがみこんで(風呂場の椅子はあったが、個人的に嫌なので使わない)正面を見ると、水蒸気で僅かに曇った鏡に自分の姿が映り込んだ。
鏡で自分の姿を見るのは、こっちの世界に来た日以来だ。神威の部屋に鏡はなかったから、ちょくちょく困ってたくらいだ。
手で曇りを拭くと、すぐにまた曇ったけど、先程よりはっきり自分の姿が映った。

「双子だから当然だけど、本当に瓜二つだな」

それはもう、気味が悪いほどに。違うところを挙げるとすれば、アホ毛がないところと神威より髪が長いこと、それから線が細いところくらいだろうか。日に当たってないことは同じだから、色の白さは大して変わらないけど、それでも耐性が全くと言っていい程ない俺の方が白い。
鏡から手を離し、蛇口を捻ってシャワーを浴びる。身体の汚れと一緒に雑念も振り払うように、ボディーソープで身体を洗う。約三日ぶりの風呂だ、不快な気分もすっきりして泡を流した。
それから髪や顔も洗い、全身すっきりしてから湯船に浸からずすぐに出た。周りに散った泡を流すことも忘れずに。
渡された着物に着替え、髪ゴムを腕につけて髪は下ろしたままにする。髪は自然乾燥でいいや。髪長いから時間かかるけど、ドライヤーないし仕方ない。
来た道を戻り、部屋の襖を開けると、桂が端座していた。隣には布団が敷かれた状態で。
…え?

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