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「…ん…」

ゆっくり瞼を押し上げ、朦朧とする意識を無理矢理覚醒させる。視界は気を失った時と同様、何も見えない暗闇を映し出した。
そんなに時間が経ってないのか?そう思ったが、妙に外が騒がしい。どうやら気絶している間に地球に着いたらしい。まだ見つかってないということは、この荷台は開けられてない。それだけは安心だ。

「っ…何だったんだ?」

痛みを感じだした後頭部に手を当てると、微かにだが小さな膨らみがあることに気付いた。たんこぶだ。頭に落ちた物は一体何だったのか。何も見えない暗闇の中、隙間から手を出してそれを手探りで探す。数秒後、手に当たった物を持ち上げて軽く握ってみる。見つけた物は細長い金属製の物のようだった。指でなぞって形状を確認すると、どうやらこれはレンチのようだ。何故こんなものが段ボールの上に置いてあったのかは分からないが、取り敢えず俺は気絶させられた恨みを込めて、そのレンチを壁に投げつけた。ごぉんという鈍い響きが狭い空間によく響いた。
暫くして、ガチャンという音と共に僅かに光が漏れてきた。開けられたドアから入ってきたのは一人だけのようだ。足音が一つしかない。まさかさっきの音で様子を見に来たのかと勘繰ったけど、そういった気配はないので一先ず安心。
これなら出れるかもしれない、そう思ったのに、入ってきた人は何かをした後すぐに走って出ていってしまった。どういうことだ?
開けられたままの為、中に光は入ってくるものの、薄暗くて若干見にくい。誰もいないのを確認して隙間から出ると、入る時には無かった物が荷台の横に置かれていた。
プラスチック製の箱にガムテープが大量に巻かれ、箱の中にはカラフルな無数のコードとタイマーが記されたディスプレイ。これは所謂…。

「時限爆弾…?」

理解した途端、俺は外に飛び出していた。タイマーの残り時間は約五分。あの大きさなら、さほど大きな被害は出ないだろうが、なるべく遠くに逃げた方が身の安全は守れる。
外は夕焼け。辺り一面がオレンジ色に染まっている。
日影から日当へ、その瞬間、くらりと眩暈を感じ、慌てて日影へ戻る。原因が分からず混乱していると、小型船の上の方で爆発音が立て続けに起こった。まさか、もう原作の展開が?だったら早くここから逃げなければ、そう思うのになかなか一歩が踏み出せない。何故、その疑問はすぐに解けた。
日当だ。たとえ夕焼けでも日の光であることに変わりはない。
そして自分は夜兎。夜兎は日の光に弱い。ましてや自分は何年も日の光に当たっていない。日光に対する耐性が、他の夜兎より極端に低くなっているはずだ。鳳仙もこれで銀さんたちに倒されたんだ、不用意に出ることは出来ない。
ここにきて、漸く俺は傘を持って来なかったことを後悔した。傘一つ無いだけで、こんなにも動きが制限されるとは思っていなかった。このままでは爆発に巻き込まれてしまう。
残された時間はあと僅か。焦る俺の視界に入ってきたのは、オレンジ色に輝く海。日に当たらず、尚且つ爆発に巻き込まれない最適の逃げ道だ。
迷っている時間など無い。意を決して海に飛び込んで数秒後、水を伝って爆発音が耳に届いた。
まさに危機一髪だった。






日が沈み、街の明かりが目立つ時間帯。
漸く俺は海を出ることができ、ザパッと音を立てて岸に上がる。髪や服の水を出来る限り絞りだす。しかし、それでもベタつくことに変わりはない為気持ち悪いことこの上ない。が、どうしようもないのでそこは諦めて、乱れた髪を縛り直す。
改めて辺りを見渡して、人通りの少ないここは、明かりも比例して少ないことが分かった。なるほど、確かにここなら密輸にはもってこいの場所だ。
船は既に壊れて使い物にならなくなっている。帰る手段が一つ減ってしまったが、仕方ない。分かり切ってたことだ。
…しかし、桂は確かに爆弾を使ってたが、時限爆弾なんて使ってなかった気がする。原作と流れが違う?俺というイレギュラーが存在するから?
ふるふると頭を振り、思考を振り払う。考えても仕方ないこと、時間の無駄だ。今は、これからどうするかを考えなければ。
取り敢えず明かりの強い方向へ歩きだす。そこが、我らが銀魂の舞台、かぶき町であるはずだ。まずは寝泊まり出来る場所を探し、昼に休憩しよう。夜にしか動けない為、なるべく日光が遮られる場所を選びたい。歩いている間にも風は吹き、海で冷えた身体にダメージを与える。それを両腕を擦ることで、僅かながらも温める。このままでは風邪を引いてしまう、早く探さなければ。

「…っくし」

一際強い風が吹き、身震いして小さいくしゃみが出た。
ヤバい、本当に風邪引くかも。
気持ち足を速めて、視線を巡らせる。そうしている内にかぶき町は段々近づいてきて、一気に視界に光が満ちた。かぶき町に着いたんだ。

「おお…!」

思わず感嘆の声が漏れる。アニメで見た時以上の輝きがそこにあった。

「和洋折衷って感じだな。ちゃんとバランス取れてる」

道行く人々の中には、天人も混じっている。

「本当にかぶき町に来たんだ…」

小さく呟いた声は、街の賑わいで掻き消される。たとえ夜であっても消えない明るさ、賑やかさに、久しぶりの涙が出た。
懐古の念が沸き上がってくるが、何とかそれを抑えて袖で涙を拭う。今は感傷に浸っている場合ではない。
再び周りを見回したところで、ある物が目に留まった。
木製のゴミ箱だった。

「んー…」

正直ゴミ箱というところが抵抗感を感じさせるが、見たところ完全密閉されていて今は使われてないようだった。所謂裏道のここなら日光は遮られるし、完全密閉ならば余程のことがない限り日光は届かない。
蓋を開けてみると、中は案外広く、人二人分なら余裕で入れそうだった。古ぼけてはいるが、結構頑丈そうだ。

「…仕方ない」

中に入って蓋を閉めると、一切明かりが届かず、完全な闇と化した。一息吐くと、姿勢を整えて目を閉じた。
人並みに戻ったとはいえ、まだまだ少ない体力で動き回った疲れは相当なもので、力を抜くとドッと疲労が身体に押し寄せた。すぐに眠気に襲われ、意識が遠退くと共に喧騒も遠退いていった。


2011.10.19

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