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よく晴れた日曜日。
燦々と降り注ぐ日光が反射して眩しい今日、吹く風が心地よい温度で眠気を誘われる。こんな時は外へ出て楽しむのが一番だ。私はそうしたかった。したかったのに。

「はぁー…」

知らず重いため息が出る。
目の前には鈴木家本邸。
あまりここへは来たくなかった。






先日、怪盗キッドが私の部屋にビッグジュエルを置いて行った。見たところ、本物の宝石だった。
あれから数日経った日曜日。親戚でありクラスメイトの園子に連絡を取って、今から向かう旨を伝える。私は好き好んで本邸へはあまり行かないため、どういう風の吹き回しだと凄く驚かれた。ちょっと心外だ。別に本家に恨みがあるとか嫌いだからという訳ではない。ただ単純に私みたいな者がーってやつだ。変に緊張してしまう。
それなりの格好をして来たが、豪華な家には少し不釣り合いな気がした。丁寧に手入れの行き届いた庭は、前に来た時と変わらず、感嘆の声を漏らしてしまう。呼び鈴を鳴らして暫くすると、勢い良く扉が開き、園子が顔を出した。

「結希ー!どうしたの急に」

相変わらずの明るさに苦笑を洩らすと、挨拶もそこそこに此処じゃ何だからと部屋へ案内して貰った。
大事な宝石を渡すのに人目のあるところではマズい。まだ宝石のことは伏せている。やっぱり驚かせたいという悪戯心が働いてしまったのだ。こういうところは、まだ子どもだなぁと思ってしまう。
通された部屋に入ると、無駄に広いそこにはクラスメイトの蘭と小さい男の子がいた。先客がいたようだ。

「あ、結希ちゃん!こんにちは!」

「こんにちは、蘭。その子は?」

蘭が私のところまで来ると、小さい男の子も一緒についてきた。おお、可愛らしい。誰かに似てるなーと思いながら、しゃがんで目線を合わせた。うん、やっぱり似てる。でも、誰に?

「この子は…」

「江戸川コナンって言います。お姉ちゃんは?」

「私は倉科結希って言います。よろしくね、コナンくん」

「結希姉ちゃん!よろしくお願いします!」

言ってニッコリ笑ったコナンくんの頭をよしよしと撫でる。大きな眼鏡の奥の瞳が嬉しそうに細められる。
やっぱり気のせいか。

「で、話って何なの?結希」

ああそうだったと本当の目的を思い出し、改めて園子に向き直る。蘭とコナンくんもいるけど、まあ大丈夫だろうと判断し、ショルダーバッグの中をあさり始めた。うわ、来る前に片付けておけばよかった。適当に突っ込んで来たから気付かなかった。なかなか見つからない。

「こないだ怪盗キッドが鈴木家の宝石盗ってったでしょ?」

「…?うん」

「その宝石を返しに来たの」

漸く目当ての物を見つけ、園子へ差し出す。包んでおいた布を外し、手の中で輝く宝石は、窓から射し込む光で綺麗に輝いていた。
大きく目を見開いてかなり驚いた様子の園子に、当然の反応かと冷静に考える。見れば、蘭とコナンくんも同じ反応をしていた。
当たり前だ。キッドに盗られた筈の物が目の前にあるのだから。

「な、何であんたが持ってんのよ…」

「あの日の夜、キッドが私のところへ来たのよ。で、何でか知らないけど、それを返しておいてくれって渡されたの」

「キッド様にお会いしたのね!?」

さっきまでの驚き様はどこへやら。宝石を受け取ると、宝石に負けないくらい目を輝かせて詰め寄って来た。

「ああ羨ましい!私も一度でいいから言葉を交わしてみたいわ!」

「別に羨ましくないよ。あんな気障野郎」

出た、ミーハー。
心底嫌そうな顔をして言ったけど、どうやら伝わらなかったらしい。既に一人の世界に入っている。蘭は園子の手にある宝石に見入っていた。
苦笑いを溢した時、鋭い視線を感じた。誰だと思って辺りを振り返ってみると、それはコナンくんのものだと気付いた。年相応とは言えない険しい表情に、私は何か得体の知れないものを感じた。

「…コナンくん?」

小さく呼び掛けてみれば、険しい表情のまま私のところまで寄ってきた。

「本当にキッドが置いてったの?」

「うん。何でせっかく盗った物を返すのか分かんないけど」

これは本心だ。何故わざわざ盗った物を返すのか分からない。不思議でしょうがないといった表情をすると、言ったことが本心だと思ったらしいコナンくんは、もう一度宝石の方を振り返った。
さっきまでの子どもらしさは微塵も感じない。眉間に皺を寄せ、難しい顔をして考え込んでいる。
その姿はまるで…。

「あー…えっと、コナンくん?」

「!…何?結希姉ちゃん」

おお、なんという切り替えの早さ。
遠慮がちに小さく呼び掛けると、険しい表情が一転、さっきまでの明るい表情へ戻った。
こいつ、本当に子どもか…?…まさか、ね。

「キッドが何で私のところに来たか、知りたい?」

「!知りたい!」

「私も詳しいこととかはっきりしたことは分かんないけど、どうやら警察から逃げてきたらしいのよ」

「警察?それっていつもの事じゃないの?」

「私もそう思ったんだけど…なんか、いつも以上にしつこかったらしいよ」

「何で?」

「さあ…私もそこまでは…」

何故いつも以上に警察がしつこかったのかは分からない。あのキッドが逃げて来るくらいなのだから、相当だったんじゃないかと思う。

「ねえ結希!もしキッド様にまた会ったら、私に連絡頂戴ね!」

「わ、分かった…」

「園子ったら…」

いきなり手を掴まれて、驚いて振り向けば、そこには輝かんばかりの笑顔の園子が。若干引きながらも了解の意を示すと、更に顔を輝かせて宝石を投げて遊びだした。
数千万はする高価な物なのに…。
蘭は苦笑して、相変わらずの親友を見つめていた。

「…じゃあ、用事は済んだから帰るね」

そのまま去るのはどうかと思い、一声かけてから行こうと思ったら、えぇー!?と不満の声が。

「せっかく来たんだから遊んでけばいいのに」

「それ届けに来ただけだし、それに……」

「…そっか。じゃ、また明日ね」

「ごめん、園子」

私が言い淀むと、察してくれた園子は素直に引いてくれた。園子は私があまりここが好きじゃないことを知ってるから。

「また明日ね、結希ちゃん」

「また明日」

蘭とも挨拶をした後、私はしゃがんでコナンくんと目線を合わせた。

「じゃあね、コナンくん。また今度ね」

「うん!またね、結希姉ちゃん」

園子があっさり引いたことに不思議そうな顔をするものの、元気良く挨拶を返してくれたコナンくんの頭を一撫ですると、私は部屋を出て家へと帰った。






翌日、月曜日。
怪盗キッドが予告状を出した。


2011.05.15

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