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「やっば…」

私、倉科結希。ただいま全力疾走中。
というのも、本日土曜日、黒羽くんとの約束があるにも関わらず、盛大に寝坊してしまったからだ。
朝起きたら9時30分頃。慌てて飛び起き、朝ご飯食べて着替えて髪セットして、家を出たのが約束時間の10分前。ここから米花駅までは距離がある。走ったところで間に合わないかもしれない。

「ハァ…ハァ…」

数分後漸く着いた米花駅は、休日ということもあって混んでいた。
時計を確認すれば、時刻は10時3分。少しオーバーしてしまったが、辺りを見渡しても、それらしき姿は見当たらない。駅の入り口が待ち合わせ場所なのだが、まだ来てないのだろうか。
額に浮かぶ汗を拭き息切れが大分収まったところで、もう一度辺りを見渡した。が、やはりいない。仕方なく入り口まで歩き始めた時、私は背後に近寄る影に気付かなかった。

「わっ!!」

「っ!?」

漸く落ち着き始めた心臓が、また鼓動を速くする。
驚きで目を見開いたまま後ろを振り返れば、そこにはこの前とは違う全体的に落ち着いた感じの色合いをした私服姿の黒羽くんがいた。黒羽くんは悪戯が成功した子どものように楽しそうに笑った。…本当に工藤くんに似てるなぁ。性格全然違うけど。

「3分遅刻の罰だ!ちゃんと驚いてくれて良かったぜ。これで驚かなかったらこっちが気まずくなってたもんな」

「びっくりした…遅れてごめん。寝坊しちゃって…」

「3分くらいなら大丈夫だ。じゃ、行こうぜ」

人混みの中、駅の構内に入り電車に乗る。先に切符を買ってくれてたらしく、しかも奢りだと言う。遅刻したことといい、本当に申し訳ない。
電車に揺られること数分、数駅先。着いたのは、有名な巨大ショッピングセンターだった。私は一度も来たことがなかったため、興味津々といった感じで建物を見上げた。

「もしかして、来るの初めて?」

「うん」

「じゃ、案内しがいがあるな。まずは一階から!」

自動ドアを通って入った店内は、たくさんの人でごった返していた。子ども連れの親子やカップル、老人など、様々な年代の人達がいた。
窓一つ無い店内は照明で照らされて、凄く明るい。少し先にあるもう一つの出入口は、中庭に繋がっているようだ。木製ベンチがいくつか見える。何人かの親子や老人らしき人影が見えるから、憩いの場として使われているのだろう。

「オススメの店は――…」






昼12時10分。
歩き回ってお腹も空いてきた頃、丁度フードコーナーが見えたので寄ってみる。全国的に有名な某ファーストフード店があったから、二人で注文して空いている席に座る。私がハンバーガーにポテト、ドリンクという一般的なメニューに対し、黒羽くんは私のより一段高いダブルバーガーにポテト、ナゲット、ドリンクと私より多い。さすが高校生男子、私にはこの量は無理だ。

「本当にこのショッピングセンター広いね。まだ全部見終わってないのに疲れたよ」

袋を開けて、中身を一口。ん、美味い。

「この店は近辺でも有数の広さだからな。夕方までには見終われる筈だぜ」

黒羽くんも一口。…一口がでかい。

「…あのさ、黒羽くん」

「ん?」

ちょ、頬膨らんでる。どんだけ口に詰め込んでんだよ。…リスみたいで可愛いだなんて思わない。なんか工藤くんを可愛いと言ってるみたいで嫌だ。

「お母さんにね、黒羽くんのこと訊いたの」

数回咀嚼して、飲み込む。
黒羽くんも飲み込み、真剣な表情になる。

「黒羽くんの言ってたことは嘘じゃなかった。だから信じる」

「…」

「アルバムにも写真あったし、証拠は確かなの。…けど」

一旦止めて、相手の目を見据える。

「本当に…覚えてないの。写真にあった出来事全部。黒羽くんとのことだけが、何も…」

「……だろうな」

「…何か、知ってるの?」

「結希、首の後ろに大きな傷痕あるだろ?」

「…何で」

「それが原因だ。簡単に言えば、部分的な記憶喪失」

記憶喪失。
そう言われれば、覚えてないのも納得出来る。目立たない程度にある、首の後ろの一本の傷痕も、何であるのか、どこでついたものなのか分からない。これが記憶喪失と関係があるのか。

「…この、傷は…」

「どうやってついたか、覚えてねーだろ?」

「…うん」

「俺から言えるのは、記憶喪失と関係があること。それだけだ。俺から言ったところで思い出せるもんじゃねーし、自力で思い出してもらうしかねーな」

何かきっかけがあれば思い出せるだろ、と言ってポテトを頬張りだした。そんな簡単なものなのかな。
今まで一度も思い出さなかったのだ。そう易々と思い出せるとは思えない。

「深く考えても解決出来るもんじゃねーから、気長に待つよ」

最後のポテトを飲み込んで、ドリンクを手に取った黒羽くんは中身を一気に吸い上げる。氷ばかりの中身はすぐになくなり、ズズズーッという音が聞こえてきた。
私もポテトを食べ終わり、残り半分のハンバーガーを頬張った。

「じゃ、私もできるだけ努力する」

「約束、覚えてる?」

「思い出したら名前で呼ぶ、でしょ?」

「おう!」

二人同時に最後の一口を口に放り込み、トレイを片付ける。ドリンクを飲み干してダストボックスに入れると、小物屋へ向かった。


2011.07.06

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