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‐‐‐‐‐
To.結希
‐‐‐‐‐
今度の土曜日どっか遊びに行かね?
場所はまた連絡する!
‐‐‐‐‐

そんなメールが送られてきたのが一時間前。

‐‐‐‐‐
To.結希
‐‐‐‐‐
オメーに会いたいって言ってる奴らがいるから、今度の土曜日博士ん家に来れねーか?
‐‐‐‐‐

これが数分前に送られてきたやつ。
上記が黒羽くん、下記が工藤くんからだ。
もともと予定はなかったし、誘いに乗ろうと思った。が、予定が重なってしまってはどうしようもない。どちらかを断らなければいけないが、さてどちらを取るか。

「結希、さっきから一人で何唸ってんの」

「園子、蘭」

直視していた携帯画面から視線を上げれば、二人して不思議そうな顔をしている園子と蘭がいた。
今は昼休み。どうやらご飯は食べ終わったようだ。

「二人の殿方からお誘いー」

自分でも分かるくらい気の抜けた棒読みだ。冗談のつもりだったが、あながち間違いではない。

「へえ、やるじゃん結希!で、本命はどっち?」

「本命?二人ともそんなんじゃないよ。ただの友達」

「そんなこと言っちゃってー、本当は好きなんでしょ?」

「まさか」

本当にただの友達。その言葉に偽りはない。

「そういえば結希、その二人って誰?」

「他校の子だよ」

嘘ではない。黒羽くんも工藤くんも、違う学校に通っているから。
蘭の純粋な問い掛けは、時々罪悪感を生む。コナンくんが工藤くんだということは秘密にしてると言われた。だから私も秘密にしなければならない。嘘をついているという罪悪感が、常に付き纏ってくる。

「じゃあさ…」

園子が何か言い掛けた時、予鈴のチャイムが鳴り響いた。
園子は忌々しそうにチャイムを睨むと、またねと言って自分の席に戻った。蘭とは一言二言交わしてから別れた。
五時間目開始のチャイムが鳴ってからは、どっちの誘いを断ろうかでずっと悩み、先生の話なんて頭に入らなかった。咎めるような視線を感じたが、完全無視した。






悩んだ挙げ句、黒羽くんの誘いに乗ることにした。
工藤くんならまた機会はあるし、申し訳ないが日にちを変えてもらうことにした。

‐‐‐‐‐
To.黒羽くん
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誘ってくれてありがとう。予定はないので大丈夫です。どこに行くのかは分かりませんが、楽しみにしてます^^
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To.工藤くん
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ごめん、土曜日は予定あるから日にち変えてくれる?
‐‐‐‐‐

五時間目終了後、そんなメールを二人に送った。すぐに返事が来たのは黒羽くんで、当日までのお楽しみ!という簡素なものだったが、彼の気分の高さが十分感じられるものだった。
一方、工藤くんからのメールは、今日の放課後博士ん家に来いという、簡素で命令形の相手の機嫌の悪さが窺えるものだった。機嫌を損ねてしまったかと後悔したが、こればっかりは仕方ない。
放課後、授業も掃除も終えた私は急いで玄関へ向かい、博士の家へ向かった。直接行くから制服のままだが、まあ問題ないだろう。
数十分後、博士の家へ着いた私は、チャイムも鳴らさずに門を開けて中へ入る。勝手知ったる阿笠邸。玄関のドアを開け、靴の多さに驚きながら上がると、奥から賑やかな声が聞こえてきた。

「博士ー?」

ひょこりという効果音が付きそうな感じで賑やかな声が聞こえた部屋を覗けば、そこには久しぶりに見る博士の他に工藤くんと見知らぬ小学生達がいた。机の上には食べ掛けのお菓子がたくさんある。どうやらおやつの時間だったらしい。
工藤くんを筆頭に私の存在に気付いた子ども達は、笑顔を浮かべて私に駆け寄って来た。

「もしかしてお姉さんが結希お姉さん?」

「?そうだよ」

「はじめまして!吉田歩美といいます!」

「僕は円谷光彦です!」

「俺は小嶋元太!よろしくな、姉ちゃん」

「倉科結希といいます。こちらこそよろしくね、皆。それと…」

女の子の歩美ちゃんを先頭に自己紹介をされた私は、微笑ましく思いながら自己紹介をする。そして、一人女の子が来ていないことに気付いた。クールという印象を感じさせる、大人しい子だ。
私の視線に気付いた女の子は、持っていたガラスのコップを机に置いて私に歩み寄ってきた。

「初めまして。江戸川くんから話は聞いてるわ。私は灰原哀。よろしく、倉科さん」

「よろしく、哀ちゃん」

…ん?灰原?
どこかで聞いた名前だと思い暫く唸っていると、思い出した時には工藤くんを振り返っていた。

「…あら、私のことは聞いてたみたいね」

私の反応で自分のことを知っていると判断した哀ちゃんは、私と同じように工藤くんを見た。工藤くんはこちらに寄ってくると、ため息をついた。

「名前と事情だけな」

「あら、そう」

「く…こ、コナンくん。私に会いたいっていう人達って、この子達のこと?」

「ああ、オメーのこと話したら会いたいって言い始めてよ」

子ども達に視線を向ければ、嬉しそうに笑って一緒に遊ぼうと言われる。子どもは嫌いじゃないし、笑っている姿を見ると微笑ましく感じて癒される。

「よーし、じゃあお姉ちゃんが色々お話してあげる!」

「「「やったー!」」」

とは言ったものの、何を話せばこの子達は楽しんでくれるだろうか。
言ってから悩み始めた私を、苦笑して見つめる工藤くんの姿があったとかなかったとか。


2011.07.03

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