我田引水


悠は、とにかく声真似が上手い。
土方さんの声は勿論、僕や平助、一君まで完璧にこなしてしまう。ただ、女性だけは苦手らしいけど。本人はそれを有意義に活かすことはなく、主に悪戯やからかいに使ってるから宝の持ち腐れって奴になってる。
羨ましいとは思わないけど、勿体ないとは思う。せっかくの特技を無駄にしてしまうのは、何だか勿体ない。土方さんもどうにかして活かしてあげればいいのに、野放し状態なのが気に入らない。
そんな僕が思い付いたのは、土方さんへの悪戯、それから…。






「あ、悠。丁度いいところに」

「総司?どうかしたの?」

悠を探して歩き回ってたら、角を曲がったところで髪を下ろした悠と会った。随分と楽な格好をして暇そうにしてたから、丁度いいと思った。

「ちょっと面白いこと思い付いたんだけど、手伝ってくれる?」

「面白いこと…分かった。何をすればいいんだ?」

面白いことに目が無い悠はすぐに頷くと、興味津々といった感じで僕を見つめてきた。
僕は近くの空き部屋に案内してから、考えた悪戯を説明する。最初は目を輝かせながら聞いていた悠は、話が進むにつれて段々渋い顔になっていった。

「…総司、それは流石に…」

難色を示す悠に、まあ当然かと思い直す。
悠は一君程ではないにしろ、土方さんを尊敬している。ただ僕と似た性格だから面倒だと思ったことからは逃げ出すし、命令にも従わない。流石に命令だと言われたら、僕はやるけどね。

「そんなこと言わずにさ、これは悠にしか出来ないことだから」

「……分かった」

渋々といった感じだけど、小さく頷いて了承した。
こうやって見ると、悠は本当に表情がよく変わる。土方さんと似てると言っても、それは顔だけ。中身は僕と同じ年の、それより少し幼い感じ。普段眉間に皺寄せてばっかの土方さんの色んな表情が見れるというのはなかなかに面白い。僕がそんなことを思ってるなんてこと、二人は気付いてないだろうけど。
僕は満足そうに笑みを浮かべると、早速悠の手を取って土方さんのところへ向かう。多分今は自室で仕事に追われているだろうことを予想して、土方さんの自室へ向かうことにした。悠は自分で歩けると言って顔を赤くしながら手を振りほどこうとしたけど、僕は逆に更に強く握って離さないようにした。






なかなか触れられる機会がないんだから、こういう少しの機会も逃さない。土方さんへの悪戯が、この為の口実だと知ったら、悠は怒るかな。それとも…もっと機会を作ってくれるかな?顔を赤くしたんだから、期待してもいいよね。




我田引水
=自分の都合のいいように計らうこと。


2011.04.01

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