大地06 | ナノ




※拍手再録



「もうチョコなんてあげない」





チョコ・DE・ぱにっく



〜榊大地の場合〜




唐突なかなでの台詞に大地は一瞬笑顔を凍りつかせた。
季節は冬。来月の今頃にはその寒さも去って春のにおいを感じているだろう。
だが、今はそんな兆しも一切ない冬の最中。寒空の下、この時期の恋人たちの唯一にして最大のイベントを目の前にして、かなではそのイベントの醍醐味を踏みにじった。
つまり、バレンタインデーにチョコをくれないと。
「え?」
「だから、大地先輩にはチョコはあげません」
校門前で待ち合わせしていたかなでは寒さだけではなく、別の理由で鼻を赤くしながら再度そういった。
大地は数回目を瞬かせた後、じっとかなでを見据えて一歩その距離を詰めた。
「なんでって聞いても?」
「自分で考えてください」
一歩ずつゆっくりと、だが確実に距離を詰めてくる大地にかなでは後退りする。大地はやれやれと息を吐いて足を止めた。
「自分で考えてもわからないんだけど」
「早すぎです!ちょっとは考えてください」
「って言われてもなあ」
後頭部をかきながら大地はううんと唸った。どう記憶の糸を手繰っても自分がかなでに何か粗相をしてしまった記憶はない。
自慢ではないがこの手の物覚えはいいほうなので、大地は困ったようにまた唸った。
「やっぱりわからないな、何かひなちゃんに嫌われるようなことでもした?」
「嫌われるようなことは・・・・・・」
かなでは疑うように大地を覗き込んだ。大地がお手上げと言う風に肩を竦めると、かなではううっと眉を顰める。
「だって、大地先輩受け取ったじゃないですか・・・さっきエントランスで・・・」
その光景を思い出したのだろう。かなでは大きな目を潤ませた。
「綺麗な人だった・・・私なんかじゃ勝てないぐらい」
「受け取った?・・・・・・・・・ああ!」
何の事だろうと考えること5秒。そのキーワードにぴんときて、大地は声を上げた。
あまりにも関心がなかった事だったせいで意識の端にものぼらなかった出来事だ。
そうか、あれを見たのかと一人納得すると、かなでが泣くのを堪えるようにすんっと鼻をすすった。
「その人にチョコもらったのなら、私のチョコなんていらないじゃないですか」
「ひなちゃん」
かなでの台詞に大地はにっこりと笑った。ヤキモチをやく彼女を可愛いと思いながら、二人の間にあった距離を一瞬で詰める。
慌てたかなでがたたらを踏んだその腰にぐっと手を回す。
「あれは友達に渡して欲しいって言うチョコだよ」
「え」
大地の台詞にかなでの目が大きく見開かれた。大地はははっと声をたてて笑う。
「その後すぐにそいつに渡したけれど、ひなちゃんはそこまでみていなかったんだね」
「そ、そんな」
私の単なる勘違いだったんですか。ほっとしたようにかなでは体から力を抜いた。緊張の糸が解けたのか、それまで滲みはしても零れることのなかった涙が瞬きのたびにボタボタと落ちて服を濡らす。
大地はそんなかなでをよしよしと撫でながら不安にさせてごめんね、と囁いた。
それから確かめるようにかなでの目を覗き込む。
「で…チョコはくれるよね?」
大地の不安そうな様子にかなでは目をぱちくりさせて、それからにっこりと笑った。
「私を不安にさせたんだからあげません」
「えっ!」
不可抗力だったんだ、という大地にかなでは笑いながらダメと言って彼の腕を擦り抜けた。




「嘘です、ちゃんとあげますから楽しみにしていて下さいね!」

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -