天宮04 | ナノ









プロポーズ大作戦



〜天宮静の場合〜



生活感のない室内で部屋の中央を陣取るようにして置かれたグランドピアノの鍵盤を叩きながら、静はキッチンから聞こえてくる物音に耳を傾けていた。
ふんふんとバイオリニストらしい調子はずれな音程で鼻歌を歌う女性に声に苦笑して、外れた音にあわせて正しい音を弾いてみる。ぽんっという弦の弾かれる音に鼻歌は一瞬とまって、それから今度はちゃんと音程の合った鼻歌を歌い始めた。
「音痴・・・ではないのだけどね」
音痴なら音程にあわせるなんていう芸当は出来ないはずだ。静はやれやれと笑ってピアノを閉じると、キッチンに向かう。キッチンではかなでが先ほどあわせられた音程の調子で相変わらず鼻歌を歌いながら何かを作っていた。部屋の中を包む甘ったるいにおいに何かお菓子を作っているのだなと思いながら手元を覗き込むと、あ、静さんと目を丸くして微笑む。
「練習は終わったんですか?」
「うん、今日はもうお終い」
昔はピアノしかなかったから一日中ピアノに触れていたけれど、今は違う。愛しいかなでがいて、ピアノがあって。幸せだなと思うと不意にかなでが口を開いた。
「クッキー焼けたら出かけましょうか?」
「どこへ?」
どうやら作っていたのはクッキーらしい。てっきり家の中で食べるのだと思っていたらかなでは首を振ってこれはプレゼント用なんですと笑った。
「友達に赤ちゃんが出来て・・・そのお祝いなんです」
「へぇ、そうなんだ」
そういえば自分たちもそういう年になったのだなと静は今更ながらに思う。
結婚をして子どもを育てる年。ちらりと横目でかなでを盗み見ると、にこにこしたままクッキーの生地をオーブンに入れているのが目に入った。いつかその腕に小さな赤子が抱きしめられてあやされているのを想像すると、これ以上ない程に愛しさを覚えて静は柔らかく微笑む。

例えば自分が子どもを育てるとして、相手はやっぱりかなでさんじゃないとだめかな

「ねぇ、かなでさん」
「どうしたんですか、静さん?」
「僕らもそろそろ家族を作らない?」
突然そんな事を言われてかなでは大きく目を見開いた。自身を落ち着かせるようにゆっくりと瞬きを数回して、それからゆっくりと微笑む。
「幸せになりましょうね」
「うん、かなでさんがいれば大丈夫だよ」
愛しいかなんでがいて、ピアノがあって、いつか子どもの声が聞こえたら。
これ以上の幸せはないよという静にかなでは嬉しそうに微笑んだ。

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