響也06 | ナノ







プロポーズ大作戦



〜如月響也の場合〜


かなでと付き合いはじめてもう五年になる。
大学は今年卒業で来年からははれて社会人だ。そろそろけじめをつけるべきかと考えて、こっそり指輪もかった。なのに肝心の一言がいえなくて、月日は流れ…

「響也これなぁに?」
よりによってそれがみつかったのは卒業式の前日だった。
半同棲状態のかなではいつものように響也に断りもなく住居に侵入し、掃除やら洗濯やらをしていたらしい。放り出されたジャンパーを片付けようとした拍子にそれはぼたりと畳の上に落ちた。
大きさはかなでの手の平ほど。有名なブランド名のロゴにかなでの目つきが険しくなる。
響也は響也で今までうまくいえなかった気恥ずかしさもあって慌てた。しかもずっとポケットに入れていた指輪は、包装もぐちゃぐちゃでみっともないことこの上ない。
返せと手を伸ばすとかなでが存外素早い動きでさっとそれを背中に隠した。
「怪しいっ浮気の証拠だ」
「なんでそうなるんだよ」
「だって響也必死だもん」
そりゃ必死にだってなるさとかなでから無理矢理それを奪おうとする。かなでも必死にそれを掴んで首を振った。
「返せ」
「やだ」
「返せってば」
ぐいっと引っ張った拍子にびっと嫌な音がした。あっと声をあげる間もなく、包装が真っ二つに破れて中から指輪が飛び出る。
ころころと転がったそれは机の足に当たって止まった。
指輪だ。見間違うはずもない。これで鼻輪だといったら鉄拳制裁がくるに決まっている。永遠とも思える沈黙の後、ぼたりと畳の上に水滴が落ちた。慌ててかなでを見上げると、子どもみたいに大粒の涙をこぼしながら泣きじゃくっている。
「か、かなで」
「ひどいっ響也ひどいよ」
浮気するなんてあんまりだなんていいながら泣きじゃくる彼女に響也は違うんだ、誤解なんだと言って指輪をかなでの目の前に差し出す。
「これはお前に上げようと思ったんだよ」
「き、記念日でもないのにっ響っ也がそんなのっ変」
「変じゃねぇっこれから記念日になるんだ!」
ひくひくなくかなでにヤケクソになって響也はかなでの左手を取った。薬指を掴んで指輪をはめるとぴったりとかなでの指に収まる。まるで設えられたような装着感にかなでが目を丸くした。響也はくそっと短く悪態をついて本当はもっとロマンチックにしたかったんだと思う。

だが、これはこれで俺たちらしいのかもしれない

かなでを抱き寄せて、唇でかなでの涙を拭う。ほんの少し体を離してかなでを見下ろすと、響也はずっと秘めてきた言葉を紡いだ。
「結婚、してくれないか」
「響也」
「そのための指輪・・・なんだ・・・ごめん、もっと早く言ってればよかったな」
痛々しいくらいに赤く染まった目尻にキスを落とすとかなでがううんと首を横に振る。
「嬉しいっ私も勘違いしてごめんね・・・響也」
「ん?」
「幸せなお嫁さんにしてね」
囁くようなかなでの言葉に響也は当たり前だろう、俺がどれだけお前に惚れてると思ってるんだと言って笑った。

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