東金01 | ナノ
ごーるどぱれっと

「おい、地味子」
寮のラウンジの前を通り掛かったとき、そう言われてかなでは反射的に足を止めた。肩越しにちらりと声のしたほうを振り返るといやにご機嫌な東金千秋と目があう。
なんだろうとかなでは一瞬振り返ろうとして、しやめた。

危ない危ない私は地味子なんかじゃないんだから

出会って以来、何故か人を地味子呼ばわりする失礼な人に振り返る理由はない。
聞こえませんでしたというようにつんと鼻を上に向けてかなでは寮のラウンジを離れようとし―――
「あぶない」
「え?」
千秋が叫んだ時には既に遅く、何かを踏んでものの見事に後ろにひっくり返りった。ごんっという鈍い音がして後頭部に衝撃が走る。
痛みよりも先に驚きがあって、慌てて起き上がると頭に鈍い痛みが走った。
「いたっ」
「馬鹿かお前は」
どうにか体を起こしたかなでに歩みよりながら千秋がふんと鼻をならす。
「ちゃんと足元をみろ」
そういわれて反射的に足元を見ると無惨にも綿のでてしまった不細工なぬいぐるみがあった。ねこなのか犬なのか、または別の動物なのか判別のつかないぬいぐるみだ。床に座り込んだままぬいぐるみを手にとってかなでは首を傾げる。
「なんですか、これ」
「素晴らしいだろう俺の作品だ」
「作品」
よくよく話を聞けば、そのあたりで出会った露店商の人と気が合い、ぬいぐるみキットをたくさん貰ったのだという。いくつかは八木沢やら律やらに押し付け、もとい差し上げたらしいのだがまだまだ手元に沢山あるのでチャレンジしてみることにしたらしい。
ちなみに出来上がり予定の写真をみる限りではウサギだが、残念なことにウサギにはみえない。どう頑張っても気持ち悪い犬か猫だ。
しかも踏み付けたせいか綿まででてしまったそれにかなではなんだか申し訳ない気持ちになった。

一生懸命作ったのに踏んだのは悪いことだよね

かなでは横で踏ん反り返ってこちらを見下ろしている千秋を見上げた。
「ごめんなさい」
「あ?」
「踏んで壊れちゃったみたいです…綿が」
言いつつ、ぬいぐるみを差し出すと東金はそれを受け取って変な顔をした。
「綿?」
「そう、綿。首のところから」
結構盛大にでていたりするのだが、千秋にはよくわからないらしい。しばらくぬいぐるみを眺めたあと再びふんと鼻を鳴らした。
「綿なら最初から出ている。デザインだ」
「デザイン…」
綿が飛び出したデザインのぬいぐるみ。シュールだとかなでは思った。だが千秋の様子をみるかぎり、彼は本気のようだ。本気でこの失敗作を芸術だと思っている節がある。
かなではしばらく沈黙し、それからやれやれと首を振った。

私が地味子ならこの人は芸術オンチだ

内心そう思って舌を出しながら、しかしその半面妙な可愛さをかんじて微かに胸がなる。
にっこり笑って素敵な芸術ですねというと、気をよくした千秋がふんと鼻をならして笑った。





あとがき
もはや×ではなく+な話になっちゃいました。千秋の芸術センスには目を見張るものがある…
以下蛇足



「そうか、俺の芸術がわかるか。じゃあそれをやる」
「えっ」
「素晴らしい作品だが気に入った者がもってくれたほうがいいだろうからな」
「…い、いらな」
「あ?」
「いえ、いただきます」

自室にて

「なあかなで」
「なあに?ニア」
「あれは…お前の趣味か?」「断じて違うからっ!」



以上蛇足でした。
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