冥加01 | ナノ







くりむぞんぱれっと







理事の仕事の帰り、元町通りを歩いていると宿敵小日向かなでを見かけた。小さな体でぱたぱたとせわしなく走り回る様はまるで小動物のようだ。冥加玲士はなんとなしに彼女の動向を見つめる。

あんなに走って何をやっている、練習はいいのか?

みたところ手にはバイオリンではなく何かの紙袋をぶら下げている。ぱたぱたと走るたびにそれが揺れて、そのせいで彼女の体は不安定に揺れているようだった。
あまりに危なっかしい走り方に冥加はじっと彼女の動きを観察し・・・案の定かなでがこけた。ばしゃっと音がして、うぅっとうめき声が上がる。暫く痛みのせいで起き上がれないのか地面に突っ伏していたかなでがのろのろと体を起こした。その様子を道行く人が不審そうに見ながら避けて通る。

何だあいつらは、女こどもが転倒すれば手を伸ばすのが普通だろう!

誰も手を貸そうとしない状況に冥加は苛立った。かなでは相当したたかに膝をうったらしく、蹲って動かない。遠目ではよくわからないが出血をしているように見える。
「くそっ」
何故俺が、内心毒づきながら冥加はかなでのもとに歩み寄った。
「貴様、何をしている」
「あ、冥加さん」
しゃがみ込んだまま動かないかなでに冥加は声をかけた。一瞬びっくりした顔をした後かなではえへへと悪戯のばれた子どものように無邪気に笑う。
「ころんじゃいました」
「見てればわかる」
とりあえずそのあたりに散らばった荷物を紙袋に戻してやりながら冥加は答えた。麦茶のペットボトルにアイスコーヒー、ジンジャエールにミネラルウォーター、野菜ジュース、マンゴージュース、果ては何故かピロシキまである。かなでは暫く冥加の言葉を吟味していたが、やがて不思議そうに首をかしげた。
「見てたんですか?」
「み、見ていない!」
通りがかっただけだと慌てて否定するとかなではですよねと笑った。
「冥加さん、私のこと嫌いですもんね」
「・・・・・・そうだな」
拾った荷物をかなでに渡してやるとありがとうとまたかなでが笑った。自分のことを嫌いだと豪語する人間によくこんな笑顔が向けられるものだと感心する。よっぽどの役者か、相当何も考えていないかのどちらかだろうが冥加は断然後者だと確信していた。

この女にそれほどの脳があるとは思えない

「・・・・・・立てるのか」
荷物を受け取っても相変わらずその場にしゃがみ込んで動かないかなでに冥加は尋ねた。ちらりと露出した膝を見れば赤い筋がつぅっと下に垂れていくのが見える。
「大丈夫ですよ、血が止まれば」
ちゃんと帰れますというかなでに冥加は大きく息を吐いた。もうここまでくれば乗りかかった船というやつか。ポケットを探ってハンカチを取り出すとかなでの傷に巻きつける。
「よ、汚れちゃいます」
「かまわない」
巻きつけた端から赤く染まっていく布に傷が思っていたよりも深いことを知り、冥加は眉を顰めた。
「貴様、今日は番犬と一緒ではないのか?」
「番犬??」
「いつもくっついているやつだ・・・たしか幼馴染だとかいう」
「響也?」
かなでが首をかしげて訊ねると冥加はそうだというように頷いた。
「あれは一緒ではないのか?」
「響也は・・・うん、最近一緒じゃないです」
へへっと笑って見せたかなでの顔に一瞬影が過ぎる。なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして冥加は決まりの悪さを感じた。あの番犬が一緒なら・・・あるいは近くにいるのなら呼べといってこの場を去るつもりだったがそれも難しい。暫く考えて、冥加はゆっくりとかなでの背中に手を添え膝裏に手をいれた。
「抵抗するな」
そういってそのままかなでを抱き上げる。きゃあと短い悲鳴が上がって小さな彼女がこちらにしがみついてきた。思ったよりもずっと軽い彼女の体に冥加は困惑する。かなでもまた急に抱き上げられたせいか顔を真っ赤にして冥加を見上げた。
「み、冥加さん」
「寮はどっちだ」
「えっ・・・」
「早く言え」
「あ、あっちです」
急かすようにそういわれ、かなでは慌てて菩提樹寮の方向を指差した。冥加はあちらかと呟くとかなでを抱き上げたまま歩き出す。まさかこの状態で寮まで行くのかとかなではさらに慌てて冥加をみた。
「み、冥加さん。自分で歩けます」
「うるさい、黙ってしがみついていろ」
さもないと担ぐぞと言う冥加の言葉にかなでは一瞬困惑し、それからおずおずと冥加の首に手を回してきた。きゅうっと肩あたりを掴んで恥ずかしそうに目を伏せるかなでに冥加は胸の奥が熱くなるのを感じた。

なんだこれは

今まで感じたことのないような違和感に眉を顰める。決して不快ではないが、しかし無視できるような些細な違和感でもない。かなでを見かけるとたまに感じる胸のざわつきに似ているような気がして冥加は大きく息を吐いた。



元町通りから寮までは結構な距離がある。しかし思っていたよりも短時間でついたことに冥加は内心困惑していた。それでもポーカーフェイスを保ったまま寮の手前でかなでをおろしてやると、かなでがゆっくりと頭を下げる。
「ありがとうございます」
「ふん、今度からは足元に気をつけろ」
ハンカチどうしようというかなでにそんなものはやると言うとかなでは一瞬目を丸くして、それからふわりと微笑んだ。
「はい・・・あ、お礼」
「いらん」
「そうは行きませんよ・・・えーっと」
がさがさと持っていた紙袋を探って、あったあったとそれを取り出す。見慣れた容器と中に入った液体の色合いに冥加の眉間の皺が濃くなる。
「・・・また野菜ジュースか」
「おいしいですよ」
「貴様の頭の中は・・・まあいい」
どうせ受け取るまでは梃子でも動かないだろうと、冥加は諦めてかなでから野菜ジュースを受け取った。
「ではな」
「はいっまた」

また――?
また会おうとでも言うのか?宿敵に・・・

にこにこと笑うかなでに冥加はゆっくりと頭を振って背を向けた。
帰り道の腕の軽さにかすかに感じた寂しさは意志の力で黙殺した。




あとがき
初冥加!・・・む、難しいよ冥加さん。話としてはラブ以前という感じですね。冥加・・・プレイ中は野菜ジュースといいトランクといいプレゼントにいちいち反応が面白くて好きです。コルダ一の常識人かと。そしてプレゼントに水系が多いという罠!重いよ・・・全部もったらきっと重いよ!!
あ、ちなみに響也はイベントで落ち込み中です←どうでもいいね

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