アステリズム | ナノ




アステリズム







勉強には付き物のアスタリスク。重要な部分はここ。テストに出るのはここ。テストにはでないけど一般常識はここ。雑学はここ。
見事に様々な色のサインペンで作られたアスタリスクにかなでのノートは占拠されている。
その色に小さな声で綺麗、と呟くと地獄耳な響也が苛立たしげに眉をあげた。
「はぁ?綺麗っつーか、これは」
ごちゃごちゃしてるっていうんだよ、と言われてかなでは肩を竦める。
如月響也はかなでの幼なじみ。響也と二人の勉強会は小学生になった頃から開かれているが、かなでが怒られなかった試しはない。

こういうとき、律くんが止めに入るんだよね

座卓に肘をつき、できもしないペン回しをしようと指を動かしながらかなでは思った。
律くん、こと如月律は響也の一つ上の兄でかなでの幼なじみだ。かなでが中学二年の春に県外の高校へと進学し、以来顔を見たことはない。

どうしてるのかな

もじもじと指を動かしながらそんなことを考えていると、コラっと短い叱責が飛んだ。
「集中しろよ、勉強中だろ」
言われてかなでは唇を尖らせた。

勉強は嫌い
でも今は勉強しなくっちゃ手に入れられないものがあるから我慢…でも限界

「いいか?こういうマークは基本要点だけでいいんだよ」
かなでが闇雲につけたアスタリスクの大群をペンシルの先で突きながら響也はかなでを見た。かなでははぁいと気のない返事で応えて、響也の頭越しに壁掛け時計を盗み見る。
勉強を開始してから1時間。そろそろ休憩の時間だ。
「休憩しよ、響也」
「休憩って…全然進んでねぇのに」
「だって時間だもん」
そして今日はやる気がでないんだもん、というかなでに響也は深々とため息をついた。
それから仰向けに寝転んでしまったかなでに視線を送る。
かなでに振り回されるのはいつものことだが、なんだか今日はいつもと違う気がする。
「そんなんじゃ、編入試験受からねぇぞ?」
そういうとかなでは響也をちらりと見て、それから天井に視線を向けた。かなでの部屋の白い天井には小さな星のシールが三つ貼ってある。昔、プラネタリウムを見に行った帰りに買った暗闇でも光る星のシール。夏の大三角形をつくろうとしてやめたのは、三角形の話があんまり幸せじゃなかったから。
かわりに星をぎりぎりまでくっつけて小さな三角形をつくった。
おまじないだった。永遠がほしかった。三人ずっといられますように。
でもおまじないは単なる気休め。永遠なんて手に入らない。
律はかなでの目の前から姿を消してしまった。
永遠に続くと信じて疑わなかった日常はあっさりと崩れて、非日常がかなでの日常となりつつある。
天井の星から目を背けるように顔を腕で隠したかなでに、響也は天井を見て、再びかなでに視線を落とした。
「お前、本当にアスタリスクが好きだな」
天井にまでアスタリスクかよ、という響也にかなでは唇を噛んだ。
三つ揃った星のアスタリスク。
願ったのは叶うはずもない永遠。




Comment=アスタリスクは三つそろってアステリズムに変身(違っ)。暗いよ…

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -