新03 | ナノ






チョコ・DE・ぱにっく




〜水嶋新の場合〜

※拍手再録



「もう、新くんにチョコなんかあげないっ」
突然のかなでのチョコ授与拒否宣言に新は力一杯不満の声を上げた。
「え、ええっなんで!?」
理由がわからず右往左往する新をかなでは彼女らしからぬ冷たい視線で見つめる。
「自分の胸に手をあてて考えて」
その言葉がその日のデートでの最後の台詞となった。

それから数日。
授業中だろうが部活中だろうがお構いなしに新は本当に胸に手をあてて考えている。
が、答は一向に見つからない。
「ううっなんでなの、かなでちゃん」
ここにはいない愛しい少女を思って、窓際で鼻を啜っていると背後で不穏な気配がした。
半ば反射的に横に逃げると、ついさっきまで新の頭があったあたりを黒板消しが凄いスピードで過ぎる。がつんと窓枠に弾かれたそれは、勢いを失って床に落ちた。
「わ、何?」
舞い上がったチョークの粉にむせながら、飛んできた方向をみると顔を真っ赤にした火積が、こちらを凄い形相で睨んでいる。
「水嶋、今何の時間だかわかってるな?」
「…部活?」
「疑問符つけんじゃねぇよ!」
八木沢から部長を引き継いでから今までよりももっと怒りん坊になった…と新は思っている…火積はイライラと壁を殴りつけた。
隣では部長を引退しても練習を欠かさない八木沢がまあまあと火積を宥めている。
「そんなに怒らないで、水嶋も部活は真面目にやらないと」
「ううっ…でも」
こんなに悩んだままだと部活にならないという新に八木沢はやれやれと息を吐いた。
「じゃあ、聞くから。それで気が済んだら練習をしよう」
「でも八木沢さん」
「火積、ここは僕の顔に免じて」
大目にみてやって、という八木沢に火積は渋々ながらも溜飲を下げた。
「で、何があったの?」
新を椅子に座らせた八木沢が尋ねと、新は肩を落とした。
あの時のことを思い出すだけで泣けてくる。
「水嶋がそれくらい落ち込むのだから、きっと小日向さんのことだとは思うけど」
一向に喋りだそうとしない新に八木沢は優しい口調で語りかけた。新はこくんと頷いて鼻を啜る。
「かなでちゃん、俺にひどいこと言ったんです」
「ひどいこと?」
あの悪意とは無縁な少女が?不思議に思って問い返すと新は再びこくんと頷いた。
「俺に、チョコくれないって」
「それはまた…」
コメントしづらいことを、と内心八木沢はため息をついた。火積が痴話ゲンカじゃねぇかと小さな声で毒づく。
だが、新には深刻な問題のようで、肩を落としたままぐずっと鼻を鳴らした。
「俺、何にもしてないのに」
「…とりあえず前後のことを教えて」
これでは情報が足りなさ過ぎる。八木沢の台詞に新はええっとと記憶を手繰った。
「あの時俺はもうすぐバレンタインだねっていう話をしてて………」



「かなでちゃん、もうすぐバレンタインだね」
「うん、今年は頑張ってつくるね」
「手作り?嬉しいな」
「ふふ、新くんたら」
「だって手作りなんて初めて貰うよ!いつもは市販のばっかりなんだもんな。一杯貰ってもちょっとありがた味がへるっていうか」
「…いつも?いっぱい?」
「うん、持って帰れないぐらい、いっぱい」
「今年も?」
「うん、もらう」



予定、そう言おうとしたところでかなでのあの台詞だ。
新は洗いざらい話してから、ね?よくわからないでしょうと言った。
それを聞いていた八木沢は何故かげんなりした表情でゆっくりと椅子から立ち上がる。
火積が先程投げた黒板消しを拾い上げた。
「八木沢、先輩?」
「水嶋、一ついいかな?」
「はい」
「とりあえず、有罪」
微笑んでそういった八木沢の背後をすり抜けるようにして飛んできた黒板消しが、今度は狙い違わず新の額に直撃した。




「とりあえず、小日向さんに謝ることをオススメします」





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