La porte de son cœur reste fermée


Clef
(鍵)



 誰しもが持つ心の領域
 決して踏み入れさせたくはない場所

 彼の心は……閉ざされたまま




「チェックメイト。
 遊びは終わりです」





 トリガーを引く彼に戸惑いはない



の心の扉を
開く者はいるのだろうか




【Scène,Un parc la nuit】
(Scene,夜の公園)


 深夜零時。人気が無い公園。
 男は脅えた目で少年を見ていた。

 少年の名は槇野アキラ。
 彼は殺し屋であり、本日は依頼を一件受け持っている。
 仕事の標的は目の前にいる男だ。
 アキラの深い紫水晶の瞳が男の目を捉えていた。

「た、助けてくれ!!
 い、命だけは!!」

 男はガタガタと体を震えさせながら懇願する。
 アキラの口角が小さくあがる。
 柔らかというよりは、人を嘲るような笑みを浮かべた。

「貴方は反省などしない。そうでしょう?」

 アキラはコートの内ポケットからメスを取り出して、男の首下へ突きつける。
 男は尻餅をついている状態で、アキラが覆いかぶさる形になっている。

「ひぃいっ!!」

 瞬間、男の全身から血の気が引いた。

「何でもする!
 何でもするから!
 命だけは助けてくれ!!」

 男はしゃにむにメスを払いのけようとした。



Shunk



「ぎゃあああっ!!」

 男の腕から大量の血が溢れ出た。
 アキラがメスで切りつけたからだ。

「山崎。貴方はいたいけな少女の命を奪ったのです。
 その罪は計り知れません。
 死んで詫びなさいな」

 山崎という男は、飲酒運転で小学生の少女を跳ねた。
 車は猛スピードで轢き逃げをしたらしい。
 警察が躍起になって捜していたが、手がかりが掴めず…。
 それというのも山崎は我に返った後、車を燃やし、谷底へ落下させてしまったからだ。
 運転手の特定が出来なくなった警察は、犯人追跡を諦めていた。
 ――しかし、アキラが所属するWiseという機密組織は、丸一日で男の居場所を突き止めることに成功した。

 山崎を殺すように依頼をしたのは、少女の遺族であった。

 だが、彼らはこう言った。


『もし、亡くなった娘に対して懺悔をしてくれるのなら、この依頼を破棄してください』

 ――と。

 アキラは冷静に男に問いかけた。

「……もし、命を助けてほしくば、貴方は亡くなった彼女に、するべきことをしなさい」

 山崎は目を見開いた。

「するべきことだって……?」

「ええ。言うべきことといいましょうか」

 アキラが肯くと、山崎は唾を地面に吐き捨てた。

「けっ! 何を言えってんだ。
 いい迷惑をしてるのは、こっちじゃねぇか。
 あいつが、道路に飛び出しさえしなきゃ、俺は察に追われることもなかったんだ!」

 山崎は顔を真っ赤にして激怒した。
 
「わかりました」

 アキラは淡々と答えるとメスを男めがけて振り下ろした。

「ニャア」

 いきなり鳴き声が聞こえて、アキラの手が止まった。
 山崎の喉元わずか数ミリのところで。
 アキラは山崎から視線を逸らした。
 真っ白な毛並みの野良猫が、ブルーとグリーンのオッドアイで、アキラを見つめていた。
 とても純粋で愛らしい瞳を持つ猫。
 アキラは猫と目が合うと、小さく微笑んだ。
 その笑みは男に向けられることの無い柔らかなもの。

「お逃げなさい」

 静かに労わるように、アキラが言った。

「えっ?」

 何事かと困惑する山崎。
 アキラはメスを再びコートの内ポケットへ仕舞うと、山崎から離れた。
 その瞬間、山崎は勢い良く踵を返し、一目散に公園から出て行った。

「ニャア」

 猫は再び鳴くと、草影の中へと去って行った。


 アキラは、この場で山崎を殺れなかったことを後悔しなかった。
 ――何故なら、時間はたっぷりと残されているのだから。

 蒼い月明かりが、銀色の髪を照らしている。
 夜は――まだ明けない。




【Scène,Clef de coeur】
(Scene,心の鍵)



は心を開かない。
純粋な心を持つ者以外は…




【Scène,Un cauchemar】
(Scene,悪夢)


「まだ、時間はたっぷりあります。
 山崎を探すことは容易に出来るでしょう」


 There is no way out for him.

「何故なら……
 彼に発信機を付けたのですから」




獄の鬼ごっこが始まる
――夜明けと、共に


 A nightmare goes on.



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