梅雨 | ナノ
『梅雨』



「雨って嫌です」

「うん?」

「辺りは暗いしじめじめじめじめ。外に出れない。しかもこの季節は蒸し暑くて朝から晩まで気持ちが悪い」

「まぁ、仕方ない」

「いっそ今からこの豪雨と戯れようかな」

「そう言うな、悪いことばかりでもないさ」

「例えば?」

「例えば今日この家には傘が一本しかない」

「?はい」

「君が帰るときにそれを渡してもいいが、用ができたときに僕が困る。
とすれば僕が君を送っていくというのが妥当だろう。二人で一本の傘だ」

「…え」

「更に君が言ったように辺りは暗い。この天候じゃあ余程の用事でない限り出歩く者も皆無だろう。つまり、傘の中で腕を組もうが口づけをしようが誰にも見られない」

「……ちょっとごめんなさい、私この暑さと湿度に耳がおかしくなったみたいです」

「そうかい。まぁそんなことよりも」

彼はにやりと笑い立ち上がった。



「もうこんな時間だ。送ってあげよう」




梅雨(たまには悪くない)