「ひどい顔だ」 「え?」 「体調は悪そうだし、顔色もひどい」 「…気のせいじゃない?」 「気のせいなもんか。切羽詰った時に焦ったって何にもならないよ」 「…でも何もしないわけには。できることがあるなら、しないと」 「君は一人で背負いすぎだ」 「動くなっていうの?」 「違うよ、そんなこと言ってない」 「大丈夫よ。まだ、大丈夫」 「大丈夫という根拠がない」 「私のことは私が分かってる」 「それも違う。いつも君は君自身が思ってる以上に無理をしすぎる」 「…でも、」 「頑固だなあ」 そう言うやいなや、秋彦は私の腕を引っ張った。思わずバランスを崩し彼の胸元に倒れる。ろくに睡眠を取れてない頭がぐらぐらし、掴まれた腕と勢いよく畳にぶつかったお尻に痛みが走った。 「ちょっ、」 「僕はね、何もするなとは言ってないよ。ただ休息も大事だって言ってるんだ」 揺れる頭を優しく抑えられ、膝に乗せられる。 「休みなさい」 顔を上げればうっすら口の端が上がった顔が見えた。子供に言い聞かせるような口調は普段聞けば子ども扱いされていると感じるはずなのに、今はなぜか泣きそうになるだけだった。 頬にかかった髪をそっと後ろにもっていかれ、そのまま手を目に置かれると柔らかな闇と微かな温もりがやってくる。 そっと深く息を吸う。 やや冷たさを纏った空気が肺のすみずみに行き渡り、少し体が楽になった気がした。自然に瞼が下りる。するとそれを手のひらで感じたのか、もう片方の手であやすように髪を梳かれた。 気持ちがいい。 朦朧とし始めた意識の最後に、秋彦が小さく囁くのを聞いた。 休息(おやすみ) ← |