神様に攫われた日 ここ最近の私はついてない。 学校からの帰り道、ため息をつきながらそう思った。 天気がいいからと散歩に出かければ突然の雨に襲われ、買ったばかりの鏡はその日のうちに割れてしまった。昨日は首輪の外れた犬に追いかけられた。その時は追いかけてきた飼い主のおかげもあってなんとか無事逃げ切れたが服は汚れて足を挫き、おまけに犬に対して相当なトラウマを持った。 「痛っ!」 自分の足に躓いて転けるのは五回目。今日だけで五回ってどういうことだ。 別に私は鈍くさい方ではないのに、思い返せば返すほど記憶に新しい、苦々しい思い出が蘇る。 「踏んだり蹴ったりってこういうことかな…」 もはや立ち上がる気力も起きずにお尻をついて足を投げ出した。幸いここの道は人通りがほとんどない。少しくらいこうしてても構わないだろう。 「あーあー。神様は私のこと嫌ってるの?私が何したのよー」 擦りむいて血が滲みだした膝をじっと見つめていれば思わず愚痴が零れた。 そのうち傷はじんじんと痛み、重く暗い気分と相まって視界がぼやける。 「神様なんか大っ嫌い」 「なんだと!?」 呟いた独り言に返事が返ってきた。 飛び上がるほど驚いて、慌てて視線をさまよわせればいつの間にか目の前に仁王立ちをした男の人。 「女学生、なぜ僕が嫌いなんだ!」 綺麗な肌。濃い眉。きらきらとした茶髪。 まるで西洋人のような人は大きな目をつり上げて怒っている。…いや、ちょっと待って。 「…あの、私、あなたのことを嫌いとは言ってないんですけど」 「言ったじゃないか、神が嫌いだと!」 「いやいや言いましたよ?それは言いましたけど」 「ああそうだな言い忘れていた!」 綺麗な人は私の話を聞きもせずに早口でよく分からない納得をした。 なんだろう、この人。もしかして関わってはいけない変人の類だろうか。 「僕は榎木津礼二郎、神だ!!」 ……変人だ。 まごうことなき変人だ。こういうときはすぐ逃げるに限る。今の私にろくな事は起きないのだ。今以上に憂鬱になるなんて堪ったもんじゃない。 しかし立ち上がろうとした私よりも先に変人…もとい榎木津さんの方が早かった。側にかがんだかと思えば膝裏と背中にサッと手を回され持ち上げられる。 「きゃあっ!?」 急な浮遊感に驚き、つい彼の首元にしがみついてしまう。 「ちょ、ちょっと待って。これお姫様抱っこって、待って」 「君は怪我をしてるんだな、可哀想に。僕が手当てしてあげよう!」 そして私の返事も聞かずに、人を抱えてるなんて思わせないような軽やかさで走り出した。 勘弁してほしい 『大抵の人間は僕に名乗っても無駄だが、聞こう!』 『……名字、名前』 『そうか、可愛いな!』 『……』 ← |