天の川を飛び越えて いつもの部屋でいつも以上に深い皺を眉間に刻んだ京極堂は、目の前で満面の笑みを浮かべた名前を見た。 「いつまでこうしている気だい?」 「もちろん京極さんが私に会いに来てくれるまで」 名前は長机を挟んだ向こうからにっこり笑う。 「催促するまでもない。目の前に居るじゃないか」 「居るだけじゃ駄目ですよ、天の川を渡ってこっちに来てくれないと」 言いながら机を指差す。 「あぁ、ここに来るなり動かし始めたそれは天の川かい。随分と浪漫がないなぁ」 「ふふふ、天の川に浪漫も色気も要らないんですよ。今日は七夕、引き離された恋人が会うっていうだけの日ですからね」 「それはそれで随分夢の無いことだが…僕が彦星、君が織り姫ということか」 返事の代わりに一層笑みを深くする。 「ならば妻を持った彦星と成人したばかりの年下の織り姫、という素晴らしい関係になる」 「そんな余計なオプションいりませんよ。私とあなたが愛し合ってたら何の問題もないんです」 ずい、と体を乗り出して期待した目で見てきた。 「彦星さん、会いたいわ」 あぁ。これが惚れた弱みというやつだろうか。迂闊にもその可愛らしさに絆されてしまった。 「君がおいで。織り姫」 天の川に手を突きながら愛しい織り姫へ手を伸ばす。ここまで人間の顔は崩れるのかと感心してしまう程嬉しそうな彼女。 顔を寄せれば目の前のまぶたは静かに閉じ、唇が合わさり。離れた途端に織り姫は天の川を乗り越して僕の首へ飛びついた。勢い余って二人して後ろへ倒れ込み、苦しい程に締めてくるその腕を軽く叩きながら腰を抱く。 なかなか。たまにならば、こういうのも悪くない。 言葉より先に ← |