短歌お題シリーズ | ナノ


行き着く先は


事務所のソファでさっきからずっと頭を抱えている彼女を見る。小さく唸る声も絶え間なく漏れていた。

「名前さーん、ほんとにどうしたんですか?」

いったいこれは何度目の問いかけだろう。
きっとまた無視されるんだろうと諦め半分だったが、彼女はゆるりと顔を上げた。


「益田さん、ど、どうしよう。私泳げないことはないけど流石に無理、絶対に無理」

「泳ぎ?」

「だってこんなになるなんて思わなかったんだから」

「…何がですか」

「だからね、最初はちょろちょろっとしか流れてなくて綺麗だったの。なのに気がついたらいつの間にかこんなに荒れてた」


本当に何のことだろう。
名前さんは真剣そのものだ。

「とにかく、溺れそうなんでしたら僕が助けに行きますよ」

取りあえずそう告げると名前さんは一層真剣、いや焦ったような顔つきになった。

「本当?あぁでも駄目、私狂っちゃう」

「…ちょっと待ってください。全く訳が分かんないです」

「?まぁ簡単に言うと私は溺れてる、狂いそうってこと」

「余計こんがらがりました」

するとちょっと膨れっ面になったが補足してくれた。

「だから、もう手遅れって言いたいの」

補足は嬉しいが説明にはなってない。自力で理解するのは諦めることにする。

「……これを聞くのは今更過ぎますが、一体全体何に溺れてるんですか」

名前さんはそれを聞くとぽかんと口を開けて、何言ってるの、とでも言いたそうにしてこう言った。



「益田さんに決まってるじゃない」







あとがき&解説