短歌お題シリーズ | ナノ


指と指


「名前さんの手、荒れてますね」

鳥口君が私の手をまじまじと見ながら言う。

「あー、やっぱ家事とかしますから。あんまり保湿とかもしないし」

「勿体ないですよぅ、折角綺麗な手なのに」

「はいはい」

彼の言葉を軽く流して自分でも手を見てみた。確かに見ただけで乾燥してるのが分かる。指先は逆剥けばかりで我ながら女の子の手とは思えない。

「あ、皮むけてる」

指の付け根の皮がうっすらと剥がれそうになっていた。

「どこですか?」

ふいに鳥口君が私の手を取り。
ドキンと心臓が飛び跳ねた。

彼はそれに気づかないまま、あーほんとですねぇ、とか呟きながら私の掌から指までをなぞる。
その所為で、脈がすぐ耳元で鳴ってるかのように聞こえだした。
それは絶え間なく、何度も何度も。


絶え間なく――


「名前さん?」

はっと我に返れば鳥口君の顔がすぐ目の前にあった。

「うわっ何!?」

「うわっ、て酷くないですか?」

拗ねたような顔つきで、もう一度私の名前を呼ぶ。

「今度保湿クリーム持ってきますよ」

それから何気なくするりと指を絡ませてきた。


触られたところが火照る。
私は顔が赤くなるのを感じながら、手を握り返して小さく頷いたのだった。



あとがきと解説