どんなあなたでも 関口君が風邪を引いたらしい。 それだけ伝えにかかってきた、どこか楽しそうな京極堂からの電話。それを聞いて私は取る物も取りあえず彼の家へ向かった。 「林檎、食べれます?」 てっきり寝込んでいるものと思っていた関口さんはなんてことなかった。布団の上に入ってはいるものの体を起こし、手元には読みかけの本が置いてある。きっと体調が悪いながらも寝続けるのに飽きてきたのだろう。 「あ、あぁ、お願いするよ。 でもそんなに気にしなくていいさ。ちょっと熱が出た程度なんだから」 「駄目です、熱は熱なんですから用心しないと」 母親のようだと笑いをこぼされるが、京極堂には密かに感謝した。本当に来てよかった。 「移してしまうかもしれないな」 「そんなこと大丈夫です」 関口さんの風邪ならいくらでも移っていいから。 そう続ければ顔を真っ赤にして俯かれた。あぁ、やっぱり可愛い。皮を剥いて食べやすいよう小さめに切り分けた林檎を渡しながらそう思った。 照れてる関口さんを見てるとからかいたくなる。 「どんなあなたも好きです」 身体を猫のようにすり寄せてのこの台詞に、今以上に真っ赤になるに違いない。そう踏んでいたのに。 「…『その健やかなるときも、病めるときも』、かい?」 普通に返された。 「先に言っちゃ駄目ですよ」 「恥ずかしいなぁ…言うつもりだったのか」 僅かに困ったような笑顔を向けてくる。なんだか急に抱きつきたくなって、彼の背中から首へ腕を絡ませた。 「ね、関口さん。私ね、関口さんがどんな時でも大好き」 背中にぴったりとくっつく。風邪のせいでやや高い体温がじんわり伝わってくることが心地いい。 「病気の時だけじゃなくて、これから歳とって皺だらけになっても、禿げてふくよかな身体になっても。もし借金まみれになっても」 大好きと零した。自分で言葉にしてみてよく分かる。どんなに格好悪くなったとしても、この人から離れることはできないのだ。しない、でなくて『できない』。どこが好き、なんて野暮な話じゃなくて『彼』が好きなのだから、到底この気持ちは変わらない。 首を捻って乾燥気味の頬に口づければ驚いてこちらを振り向く。 やっぱり、大好きだ。 自分でも顔が綻びるのが分かった。 そんな事を考えていると、不意に何か柔らかい物が唇に当たった。一瞬で離れたそれはすぐ目の前で薄く弧を描いている。 「っ…!?」 「僕も、名前と同じだ、よ」 はにかみながら放つその一言、反則だ。 柄にもなく照れて赤くなった顔を背ける。 実は彼の方が何枚も上手じゃないかと思った、そんな一日。 『 つのる想い 』 あとがき&解説 ← |