水の粒子 「あ、榎さん!」 「何だい、大人しくないなぁ」 榎さんだけには言われたくない。 ソファで榎さんと隣り合って座っていた名前は心からそう思った。しかし気を取り直す。 「私、たった今水になってしまいました。榎さんのせいで」 「名前は水になれるのか!?」 「榎さんがしたんですよ」 「僕は名前を水になんてしないぞ。そんなことしたらうっかり排水溝とかに流れてしまう!」 「でもしたんです」 何故か偉そうにふんぞり返っている彼を見つめた。 「知ってますか、人間の体は殆ど水なんですよ」 「神が知らないことはないぞ」 「だから、時々私はただの水になってもおかしくないじゃないですか」 しばらく彼は考える素振りを見せ、パッと顔を明るくした。 「名前の言うことは筋が通ってるな。じゃあ僕は水になった名前を掬ってやろう」 排水溝に流れたら探すのに骨が折れそうだ、と言って私の頭を乱暴に撫でながら満面の笑みを顔に浮かべていた。 彼の掌に包まれた水の私を想像してみる。 何て温かくて、何て澄んでいる場所だろう。 いつか、その手に乗れることを願って。 あとがき&解説 ← |