ぶかぶかの上着は彼そのもの
いつものように宿題で分からない所が出たので、勝手知ったるなんとやらで幼馴染みである蓮二の家に上がり込み、部屋に行けばベッドに綺麗に畳まれたジャージが置かれていた。
常々身長差があるのは、分かっていた。
当然ながら大きいであろうというのは、分かる。
思わずキョロキョロすると、恐る恐るつばさは手を伸ばしてジャージの上着を手にすると広げて自分に充ててみる。
「おっきぃ……」
ぽつりと呟き、好奇心の赴くままに羽織ってみれば当然の事ながら袖から手が出る事もなく。
ジャージのチャックを締めてみれば、スカートの裾がギリギリ出る程度。
明らかに身長差が物語っていた。
両手を伸ばしてみたり、パタパタと意味もなく腕を動かしてみたりしていると。
「楽しそうだな、つばさ」
「ひゃおう?!」
「なんという声を出してるんだ」
突然声を掛けられ、変な声で驚くつばさが振り向けば。
そこには帰宅したばかりの蓮二が、呆れた表情をしつつもどこか楽しげにつばさを見詰めていた。
「れ、れ、蓮ちゃん?」
「なんだ?」
「い、いつからそこに?」
「ふむ。そうだな、何やらつばさが俺のジャージを手にしてみたかと思えば羽織り楽しそうにしている」
「それって全部じゃん!」
蓮二の言葉に思わず叫べばクスリと笑みを浮かべ、わたわたとするつばさに近寄りぎゅっと抱き締める。
「ふみゃ?!」
「本当につばさは面白い声を上げるな」
「だ、誰のせいですか?」
「俺だな」
「うぐぐ」
ぎゅっと抱き締められたまま、背の高い幼馴染みを見上げればそこにはやはり楽しげな表情がつばさを見下ろしていた。
そんな幼馴染みであり、恋人でもある一つ年上の蓮二にはどうしても勝てないつばさ。
「蓮ちゃんには勝てない、悔しいのでこのジャージは貰って帰る」
「待て、どこをどうしたらそうなるんだ」
「えー。寝る時のパジャマ替わりに欲しいな〜って。蓮ちゃんにぎゅってされてる気分になれるし?」
「……全く、つばさには敵わないな」
「えー?そうかな」
「そうだよ。いいよ、持って帰っても。ただし、外では絶対に着ない事。いいな?」
「はーい」
蓮二の言葉ににっこり笑って頷き、上機嫌のまま本来の目的である宿題を教えて貰う。
大きな上着は、彼そのもので寝る時に抱き締められているような感じがして安心して眠る。

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