不安な夜
今年も残す所、あと1日。
大掃除も早々に済ませ、お節も作り終えてのんびりとした時間を過ごす中。
夜の静かな室内には、2人の呼吸音が静かに落ちるだけ。
ソファーに腰掛け、読書をする後姿を眺めていたつばさは、不意にいつかこの背中が消えてしまうのではないかという不安に駆られ。
ソファー越しに、柳の背中にそっと抱き着いた。
「どうした?つばさ」
「ん、なんでも……」
「ない。と、お前は言うが。そんな事はないだろう」
「……ふふ、相変わらず隠し事が出来ないよね」
柳の言葉にほんの少し笑みを浮かべ、つばさは返す。
腕を引かれ、後ろから前に回って正面から抱き付けば。
シッカリと抱き締める腕に、ホッと安堵の息を吐く。
優しく頭を撫でる大きな手に、つばさは知らず知らずの内に肩の力を抜く。
「どうしたんだ、つばさ」
改めて、静かに問うて来る声につばさは柳から視線を逸らすと小さな声で答えた。
「不安になるの。いつか、いつか私の前から消えてしまうんじゃないかって。ううん、今こうして居てくれる事自体が夢なんじゃないかって」
「つばさ」
「当たり前のように、こうして一緒に居て。同じ時間を歩んでいるけど、この当たり前がずっと続く保証なんて何処にもないの。当たり前が当たり前じゃなくなる日が来るんじゃないかって、不安になるの。怖いの……怖いのよ、蓮ちゃん」
かつて呼んでいた懐かしい呼び名で、名前を呼びつばさは幼子のように泣く。
どうして、こんなに不安になるのか分からない。
幸せすぎるから。
それも、一つであろう。
今が幸せだからこそ、喪う怖さを思う。
「俺は此処に居る、つばさと共に居る」
ギュッと、つばさがほんの少し痛いと思える程に。
柳の存在を感じられるぐらいの強さで、抱き締め囁く。
不安になった夜には、強く抱き締めて囁いて。
他の誰でもない、貴方自身の言葉で。
教えて欲しい。
「蓮二……」
「傍に居るよ、つばさ」
涙で濡れる瞳で見上げれば、優しい笑みを浮かべて頷く柳。
そんな柳につばさは、ギュッと抱き付き離れないとばかりに擦り寄る。
そんな、静かな夜。

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